研究課題/領域番号 |
17K01194
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
佐々木 健 京都工芸繊維大学, 分子化学系, 准教授 (20205842)
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研究分担者 |
佐々木 良子 嵯峨美術大学, 芸術学部, 講師 (00423062)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 有機色材 / 経年劣化 / HPLC / 質量分析 / 産地特定 |
研究実績の概要 |
これまで有機色材の分析において主たる成分の分析から,「何であるか」すなわち「材質」を明らかにするとともに,試料中の微量副成分を知ることで「何処のものか」すなわち「産地」が特定できることを示してきた。本研究では微量成分を詳細に分析することで上記に加えて劣化の程度あるいは経年を示す成分が存在しうることを明らかにした。また,試料採取量の微量化とともに構造不明の資料の構造決定を目指して,以下①と②を新たに導入し,文化財資料中に含まれる産地あるいは年代指標物質の構造決定手法を開発した。 ①HPLCと質量分析を直結したHPLC-MSシステムを構築し,HPLC情報と質量情報の同時取得の方法を確立した。 ②分取HPLCシステムを導入し,微量成分の単離精製を行うための基本技術を確立した。 ①は各種有機色材成分の同定と組成の次の二つの定量分析に応用した。【1】黄檗染繊維品の経年年代指標物質未知物質X1とX2に適用し,MSにより得られた質量数から経年によって酸化された物質と想定した。また,文化財資料として京都工芸繊維大学所蔵資料の分析を行い中から適宜選択し,実資料での有効性を明らかにした。【2】スチックラックのおける産地特定物質マーカーのHPLCによる分析手法として陽イオン交換手法による,ラック成分の分析手法を確立し,産地特定にかかわる重要な物質を特定した。 ②に関しては今年度備品として購入した高送液量ポンプを主体とする分取HPLCを導入し,分取HPLCの運用と分析HPLCからの移行のための基本的手法を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は微量成分の構造決定をHPLCだけでなく,質量分析と組み合わせて行うとともに,厳密な構造情報が得られる核磁気共鳴法(NMR)を導入することが最終的な目標である。それに対して微量副成分を単離生成する手法の確立と質量分析による分子量情報が極めて重要である。本年度は特にキハダ成分の分析に関してこの二つの手法のうちHPLC-MSによる分子量情報の取得に成功した。さらに分取HPLCを導入して成分の分離精製のための基本的な手法を確立することができた。これを運用することで構造未知物質の単離精製が可能となった。また,ラック成分についてはHPLCによる産地に関する指標物質を明らかにすることができた。今後,MSとの連携による構造情報へのアプローチが可能である。
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今後の研究の推進方策 |
黄檗染繊維品の経年年代指標物質の単離と構造決定 二つの経年指標となる未知物質X1とX2が検出されている。この二つの化合物はMSにより得られた質量数から経年によって酸化された物質と想定しているが,正確な構造については不明な点が残っている。文化財資料からの抽出物を用いて質量分析とNMRで詳細に検討し,その由来と生成過程を明確にする。 構造決定のための純粋物質として単離する必要があるため,強制劣化による成分の取得と分取HPLCによる単離生成を行い,核磁気共鳴による構造決定に供する。 スチックラックのおける産地特定物質マーカーのHPLC-MSによる分析手法の確立 現在HPLCで最適化されている陽イオン交換分析手法はMS非対応であるため,ラック成分のHPLC-MS分析手法の確立とその構造情報の取得を目指し,分析条件の最適化を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
H29研究費の繰越すこととなった理由(繰越研究費が生じた状況):在庫の使用による試薬類の購入費用ならびに備品類のメンテナンス費用の負担がなかったため当初の予算との差額が生じた。 H29繰越額のH30における使用計画:標的とする指標物質の特定と分離分析方法の確立と精製ならびにESI-MSにより構造決定に必要な溶媒類とHPLC用カラムの購入に充てるとともに,海外での情報収集のための旅費に使用する。 H30研究費の使用計画:キハダからの指標物質に加えて今回見出したラックの産地指標物質の特定と分離分析手法の確立のための費用と構造解析のための試薬ならびに実験機器類の購入に充てる。また,国内外の学会に出席して成果発表を行う。
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