これまでの研究により,有機色材(特に染料)の主成分の分析から,いかなる材料が使われたか,即ち「材質」を明らかにすることができるが,微量副成分を明確にすることで色材の由来,例えば「産地」や「移動経路」などが明らかにすることができることを示してきた。さらに,この微量成分の構造を詳細に解析することで,上記に加えて劣化の程度あるいは経年を示す成分が存在しうることを明らかにしてきた。この目的のために試料採取量の微量化とともに構造不明の資料の構造決定を目指して, 高速液体クロマトグラフ(HPLC)-質量分析(MS)システムの構築とHPLC情報ならびに分取HPLCシステムを導入して微量成分の単離精製を行うための基本技術を確立し,文化財資料中に含まれる産地あるいは年代指標物質の構造決定手法を開発するとともに経年劣化物質の文化財資料からの入手に加えて促進劣化を黄檗成分に応用し,構造未知物質X1とX2を得ることができることを示してきた。 今年度は劣化によって生成する物質の構造解析を行い,それらが酸素化された酸化物や酸化と加水分解に伴って生成する脱アルキル化化合物であることが明らかとなった。また,スチックラックのおける産地特定物質マーカーの特定してきたが,今回,産地特定にかかわる重要な物質を任意に選択することでアジア全般に分布するラック類の産地がほぼ特定することができることを多数を資料を用いた網羅的研究によって明らかにした。
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