研究課題
本研究は、日本出土のガラス製遺物のSr同位体比分析を実施し、これまで特定することのできなかった生産地の特定を目指すものである。平成31年度は、飛鳥寺塔心礎出土のガラス小玉のSr同位体比を測定した。飛鳥寺塔心礎出土のガラス小玉は化学組成の特徴からメソポタミア地域で生産された可能性が高いと推定される植物灰ガラスである。今回、本資料のSr同位体比を分析した結果、これまで調査したガラス資料の中で最も低いSr同位体比を示した(87Sr/86Sr:0.708346)。このような低いSr同位体比はシリア内陸部のラッカ(ユーフラテス川中流域)で出土しているガラスと共通することが分かった。さらに、本年度は鉛同位体比分析から着色剤のコバルト原料産地についての検討をおこなった。地中海世界で生産されたと推定しているナトロンガラス(GroupSI)に使用されたコバルト原料は、MnOが少なく、少量のPbOとCuOを含有するタイプである。このような着色剤の特徴は西アジアもしくは中央アジア産と推定している植物灰ガラス(Group SIIIB)にも共通する。鉛同位体比測定の結果、このようなMnO含有量の少ないコバルト原料で着色されたGroupSIおよびGroupSIIIBの鉛同位体比は、互いに類似した鉛同位体比を示し、既発表の鉱石データではイラン、パキスタン、オマーン等に類似の値を示すものが存在することがわかった。このことは、基礎ガラスの生産地との関係からも整合的に理解できる。
2: おおむね順調に進展している
本年度に予定していた鉛同位体比からナトロンガラスの着色剤の産地について検討することができた。さらに、比較対象として同じ「西方世界のガラス」である植物灰ガラスのSr同位体比を測定することができた。その結果、日本出土のナトロンガラスは東地中海沿岸部で出土するガラスと共通のSr同位体比を持つのに対し、飛鳥寺塔心礎から出土した植物灰ガラスのSr同位体比は、シリア内陸部のラッカ(ユーフラテス川中流域)で出土しているガラスと共通することを示すことができたことなど、当初の予定通りの進捗と成果が得られている。一方で学会誌に投稿することで、成果を発信することとしていたが、研究成果を投稿中の学術雑誌の刊行が令和2年度になったため、成果の公表についてはやや遅れている。
研究成果を学術雑誌に投稿し、成果を公表する。
当初、学会誌に投稿することで、成果を発信することとしていたが、研究成果を投稿中の学術雑誌の刊行が令和2年度に遅れたため、次年度使用額が生じた。当該学会誌は次年度の早い時期に刊行されるとの連絡を受けており、次年度繰り越し分は学会誌の投稿料として使用する予定である。
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北海道考古学
巻: 56 ページ: 1-20
出土銭貨
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奈良文化財研究所紀要
巻: 2019 ページ: 58-58