研究課題/領域番号 |
17K01208
|
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
吉田 泰幸 金沢大学, 国際文化資源学研究センター, 客員准教授 (20585294)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 復元 / 視覚メディア / 先史時代 / 考古学 / 表象 / 科学コミュニケーション / 博物館学 / 学校教科書 |
研究実績の概要 |
本研究は日本列島における先史時代人はどのようにビジュアライズされるのかを明らかにするために、①先史時代の復元イメージの収集・データベース作成を文献調査とフィールド調査による復元イメージの変遷・多様性の把握、②1)新たな考古学的発見、2)考古学の研究動向、3)先行する先史時代人像、4)人々の先史時代への見方、これら4要素と先史時代人イメージの関係分析を行なっている。 2018年度は、①の国会図書館を利用して文献調査と、フィールド調査として東北・関東・信越・中国地方の博物館展示における先史時代の復元イメージの事例を収集した。 ②では、3)先行する先史時代人像、4)人々の先史時代への見方にフォーカスし、先史時代人イメージの系譜学的検討を行った。結果、以下のみとおしを得た。日本列島の先史時代人を視覚化、復元イメージの製作は19世紀末に始まる。その時点で、A)考古資料をもとにしたもの、B)民族考古学的視点をもとにしたもの、C)進化論をもとにしたもの、D)神話の世界観をもとにしたもの、が混在していた。1945年以降はC)の半裸・未開の原始人イメージが支配的になる。その原因のひとつは1950年代以降の社会科・歴史教科書にヨーロッパで先行していた先史時代人イメージが直接的・間接的に多数みられることが挙げられる。再びA)、B)がみられるのは1980年代以降に“Affluent Forager”の影響を受けたイメージ群が作られるようになってからである。 以上の分析結果を考古学専門誌にて発表し(1件)、先史のイメージがどこからどのようにやってくるのかは、国内的な検討にとどまらず、広範な比較検討が必要なことを強調した。その他、本研究関係した論考を現代思想専門誌に発表(1件)、シンポジウム発表の論文化(1件)、アートと考古学の関係史に関する口頭発表(1件)を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は順調に進展しており、本研究を基課題とする国際共同研究加速基金(国際共同研究強化)「先史時代イメージの分析による考古学・博物館学への内省的アプローチ」との相乗効果として、欧州考古学と日本考古学における先史時代イメージ変遷の比較検討を行うことができた。 ①日本列島先史時代復元イメージのデータベース構築のための文献調査においては、19世紀末から現代までの中で幅広い年代の多様なメディアからのデータを収集することができ、復元イメージの変遷・多様性の把握を進めている。フィールド調査では、これまでに本州島の代表的な博物館の調査は順調に進んでいる。これらのデータをもとにした②の分析では、前年度に課題として挙げた「1945年以降の合理主義的進化論台頭の背景として考えられる、欧州における近代科学として考古学の形成過程、欧州における先史時代人の視覚化の影響の検討」を進めることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、分析のもととなっている①のデータ収集の充実を続ける。特に、20世紀前半の事例に関するデータの充実、フィールド調査では北海道と沖縄という本州とは異なる先史時代への見方が予測される博物館での調査を予定している。②においては、これまで先史時代の復元イメージの中でも人の姿に着目してきたが、それにとどまらない視点での検討を進める予定である。具体的には自然観、日本文化論の影響、人種論、ジェンダー観、社会の発展段階論と復元イメージの相互関係に着目した検討を進める。
|