研究課題/領域番号 |
17K01209
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
清水 則雄 広島大学, 総合博物館, 准教授 (70437614)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | オオサンショウウオ / 幼生の離散 / 年齢査定 / 地域資源 / エコミュージアム / 環境教育 / 包括的自然再生 |
研究実績の概要 |
1)基礎生態データの収集:広島県東広島市椋梨川上流部約4kmを調査区域とし計16回の野外調査を地域住民と協働して実施した。成体53頭を捕獲し、全長・体重・性別・身体的特徴・緯度経度を計測・観察した。合わせてマイクロチップによる個体識別を行った。今後、得られた各区間の個体の移動の有無と全長組成から個体群の隔離状況を評価・推定できると考えている。 2)幼生(全長約65mm-430mm)の追跡(1月-6月)と生息地探索:巣穴下流の堰堤に流下を制限されている幼生106尾を捕獲し、ワイヤータグの挿入を行い流下すべき河川に30個体の放流を行った。また、幼生が利用する餌を特定するために環境中の餌生物調査と幼生の糞分析を実施した。放流個体の再捕獲はできていないが、今回はじめて145mmの幼体を捕獲することができた。数は少ないが本河川に幼生の生息地が存在することが示せた。今後、放流個体を本確認地点周辺で確認できるのではないかと期待している。また、環境分析と糞分析から、幼生が環境中に最も多く存在する水棲昆虫を捕食するのではなく、成体と同様に移動性の高い種群を捕食していることを明らかにし、学術論文として発表した。幼生の生息環境を探索する上で重要な結果となった。 3)年齢査定と寿命の推定:生年月日と死亡年月日が確認できる標本を試料として用い1-11齢個体の年齢査定に成功し、学術論文として発表した。今後、より高齢個体への応用が期待される。 4)エコミュージアム化による成果の発信とその評価:公開講演会、野外観察会、出前講座を地域住民及び小学校を対象として地域住民と協働して実施した。また出前博物館(8月)も地域の夏祭りにて実施し、実物、レプリカ、パネル等を展示し720名の来場者を得た。本来オオサンショウウオに関心のない人々にもアプローチすることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
豪雨等で実施できないこともあったが、概ね順調に調査を実施できた。野外調査により、53頭の成体、幼体1頭、幼生106頭を確認した。特に全長145mmの幼体の確認は本調査地では初めてのことであり、重点的な調査の成果であると言える。本確認地点をひとつのモデルとして他の幼体の生息環境の特定に近づきたいと考えている。また全長50mmの幼生の106個体のうち40個体をワイヤータグを挿入するために育成中である。今後、放流個体数の増加による再捕獲率の向上が期待される。 幼生の生息環境を評価するために実施した環境中の餌生物調査、及び幼生の糞分析による食性の解析は日本オオサンショウウオの会、日本陸水学会にて成果を公表し、学術論文にも掲載された。幼生の生息環境を探索する上で重要な結果となり、幼生調査も順調に推移していると考えている。 年齢査定に関する成果も論文となり、各種新聞に掲載されたほかYahooニュースや朝日新聞デジタルにも掲載されるなど大きな反響を得た。 エコミュージアム化については、予定のすべての活動を実施できた。
|
今後の研究の推進方策 |
引き続き野外調査を実施することで、得られた各区間の個体の移動の有無と全長組成から個体群の隔離状況を評価・推定できると考えている。また、幼生がどのくらいの範囲(距離)を生活圏として利用しているのかを確認するために幼生・幼体の生息域と考えられる地点の重点的な調査を実施する。本種の生活環を完結させ、最低限必要な保護ゾーンの設定を行うためには必要不可欠な調査となる. 年齢査定については、高齢個体の査定には骨の中心部分が中空となり年輪が判別できない課題もあり、中空部分の成長率や平均値の算出等の課題解決が望まれ、現在、課題解決に向け専門家と検討中である。 エコミュージアム化については引き続き本年度も各種活動を実施することで成果の普及をはかるとともに地域との連携強化をはかりたいと考えている。また、本年度はエコミュージアムの核施設の設置年となっているので、調査成果をまとめた展示を調査地である地域センターに整備する.以降各年度の成果を適宜出前展示後、常設展示に加えることで更なる成果の普及と連携強化をはかる。アンケート調査による評価(4月~11月):参加者・来場者アンケートによるエコミュージアム体験に関する評価の実施を行えなかったので、実施したいと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
年齢査定に関する実験機器をモデルの廃止により購入できなかったので学内機器をレンタルして実験を行った。本年度以降も購入予定はないため、本予算は新たに確認できた幼体追跡用のラジオテレメトリー装置の購入を行う予定である。
|