研究課題/領域番号 |
17K01209
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
清水 則雄 広島大学, 総合博物館, 准教授 (70437614)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | オオサンショウウオ / 幼生の離散 / 年齢査定 / 地域資源 / エコミュージアム / 環境教育 / 包括的自然再生 / 豪雨災害 |
研究実績の概要 |
1)基礎生態データの収集:広島県東広島市椋梨川上流部約4km(7区間)を調査区域とし周年にわたる2018年4月-2019年3月まで計24回の野外調査を実施した。のべ成体110頭を捕獲し、全長・体重・性別・身体的特徴を計測、マイクロチップによる個体識別を行った。2018年7月の西日本豪雨により本調査地も甚大な被害を被り、個体識別個体55個体のうち多くが流失した。緊急調査を7月20日から20回実施し、34個体を確認(6個体の新規個体を含む)し、教育委員会の許可を得て上流へ再放流を行った。流下距離の中央値 1,022m(最小278m-最大4,540m,N=6)であり、長距離の流失を確認した。 2)幼生(全長約65mm-430mm)の追跡(3月)と生息地探索:豪雨により3つの巣穴のうち2つが倒壊したが、幸いにも代替巣穴が2つ構築され再放流した雌の産卵を確認した。幼生の巣立ち後の3月に堰堤上で幼生85頭を確認できた。流下すべき堰堤下に50個体の放流を行った。残りの30個体については、ワイヤータグの挿入を行い放流を行う予定である。 また、幼生が巣立ち後の初期(12-4月)に隠れ家や餌場として利用している水底の落葉の種類と渓畔林の植物相の関係を明らかにし学術論文として発表した。 3)年齢査定と寿命の推定:昨年度は1-11齢個体の年齢査定に成功し、学術論文として発表した。より高齢個体への応用を目指し、標本を収集中である。 4)エコミュージアム化による成果の発信とその評価:東広島市教育委員会文化課、観光振興課と協力して、エコミュージアムのコア施設となる本種の一時保護施設「オオサンショウウオの宿」を整備した。新年度に試験運用を開始し、痩せ個体の保護育成、流失幼生の保護・育成、交雑種の隔離を行うとともに、展示として公開し、エコミュージアムのコア施設として機能する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
野外調査により、のべ110個体の成体を確認した。豪雨災害による被害は甚大であったが、豪雨により多くのオオサンショウウオが流失することを確認することができた。上流の個体群は空洞化していたため、流下個体の上流への再放流を実施しなければ繁殖への直接的な打撃となったと考えられる。本来、本種は上流に遡上して繁殖を行うが、それを制限している人工堰堤の落差解消が望まれる。 豪雨災害後の野外調査の様子は、各種マスメディアに掲載されたほかNHK「ダーウィンが来た!」にも3月3日に「守れ!オオサンショウウオ 豪雨からの復活大作戦!!」として取り上げられた。前倒しで整備することができたコア施設となる一時保護施設も朝日新聞デジタルにも掲載されるなど大きな反響を得た。 幼生の生息環境を評価するために水底の落ち葉の種類と渓畔林を構成する植物相調査を実施しその対応関係を明らかにした結果を学術論文として発表した。 3月には全長50mmの幼生の30個体を捕獲し、ワイヤータグを挿入するために育成中である。 豪雨の影響は想定外で甚大であったが、個体群の影響をきちんと把握し、個体群の最低限の維持を行うことができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き野外調査を実施する。調査地を拡大して豪雨で流失した個体の捜索を引き続き実施する。また、幼生がどのくらいの範囲(距離)を生活圏として利用しているのかを解明し,本種が生活環を完結させるために最低限必要な保護ゾーンの設定を行う。 エコミュージアム化による成果の発信とその評価.1.公開講演会・出前講座(4-5月):オオサンショウウオに関する公開講演会と出前講座を地域住民及び小学校を対象として実施する。2.野外観察会(9月):生息地での生態観察,解説.繁殖巣穴,堰堤などの見学.3.出前博物館(8-11月):整備した一時保護施設にて,パネル,実物を展示し、オオサンショウウオに関心のない客層にもアプローチする。 アンケート調査による評価(4月~11月):参加者・来場者アンケートによるエコミュージアム体験に関する評価を実施し、ミュージアム化の課題と可能性を検討する。
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