研究課題/領域番号 |
17K01211
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
駒見 和夫 明治大学, 文学部, 専任教授 (20225577)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 博物館教育 / インクルーシブ教育支援 |
研究実績の概要 |
アンケート調査への回答を得た教員の中から18人への補足のインタビュー調査と、博物館利用の問題点と児童生徒の博物館に対する認識および利用の実態について、特別支援学校教員との意見交換を3つの学校で実施した。これらを通して、とりわけ知的特別支援学校において、博物館の学習支援が十分でない状況と博物館利用の低調な実態が明らかとなった。そこで、知的特別支援学校に向けた博物館出前講座のプログラムを検討・構築した。同時に、知的障害の児童生徒が博物館に親しみをもてるように、教室内でバーチャルな博物館体験ができるように、iPhoneを利用したe-ラーニング学習ツールを制作した。このツールは、明治大学博物館と和洋女子大学文化資料館の2館をモデルに、展示体験を各人のiPhoneやPCなどで体験できる教材である。知的障害児対応と知的障害のない児童生徒向けの2つのバージョンをそろえた。 そのうえで、東京都立の知的障害特別支援学校中学部への博物館出前講座を2回実施した。対象は自立活動を主とする教育課程の生徒で、重度の知的障害に肢体不自由のある生徒も含まれていた。実施にあたり、生徒の実情を把握するための事前見学をおこなうとともに、学習内容に対する教員と3回の検討会の機会をもった。また、講座は明治大学学芸員養成課程の学生4人が加わるチームティーチングでおこない、3回の事前研修に取り組んだ。終了後、講座にかかわっていただいた教員へのアンケートとインタビュー調査をおこない、講座の評価と成果分析を実施した。これをもとに、講座プログラムの再検討と教材の見直しについて現在も継続して進めている。 このほかに、特別支援学校への学習支援を積極的に実践している博物館への実態把握調査も並行して実施した。その成果を構築した出前講座プログラム等に取り入れた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の基盤となる特別支援学校の教員へのアンケート調査を2017年度に実施した。千葉県市川市と東京都江戸川区・葛飾区内の知的障害・盲・聾・肢体不自由の各特別支援学校10校の教員408人から回答を得ることができ、この集計と分析を完了させた。さらに、回答してくれた一部の教員への補足のインタビュー調査を2017~2018年度に取り組んで終了した。あわせて、博物館利用の問題点と児童生徒の博物館に対する認識および利用の実態について、教員との意見交換を9校において実施し完了した。これは、アンケートに回答した学校の教員の一部に集まってもらい検討会を開催する予定であったが、特別支援学校の教員は忙しく時間を割くことが困難であったため、これに替わる手段として実施したものである。 また、特別支援学校への博物館出前講座のプログラムを作成し、出前講座で実物資料とともに用いる学習教材として、iPhoneを利用した博物館体験型のe-ラーニング学習ツールを制作した。これは明治大学博物館と和洋女子大学文化資料館の収蔵資料と展示室の探索をweb上でバーチャルに体験できることを意図したものである。講座終了後にも学校の通常授業で、あるいは児童生徒が関心に応じて自宅でも自主的に使える教材となるようにして、さらに知的障害の有無を考慮してコンテンツを選択できるように工夫した。 このプログラムとツールを使って、東京都立の特別支援学校(知的障害・肢体不自由)中学部への出前講座を2回実施した。当初は複数の学校で3~4回実施する計画であったが、事前準備に時間が要したことと、学校側の授業計画とのすり合わせが難しかったため、2018年度は2回の実施にとどまった。この対応として、教員と講座スタッフとの事前打合せを入念におこない、2回の講座で少しでも多くの検討データが得られるよう、また生徒の学習成果が上がるように努めた。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度に実施した博物館出前講座の成果を検証し、プログラムの見直しとe-ラーニング学習ツールの再検討をおこなう。そのうえで特別支援学校への博物館出前講座を継続して実践し、プログラムと学習ツールを完成させる。特別支援学校への出前講座は、まずは6月に区立の養護学校中学部で実践することが決まっている。講座には明治大学学芸員養成課程の履修学生が参加し、学生に実地体験学習の機会を提供するとともに、チームティーチングの態勢を組んだスタイルとする。出前講座は他にも2回程度実施したいと考えている。 この実践と検討を進めて、特別支援学校に適った博物館出前講座のプログラムを完成させる。計画では、知的障害・盲・聾・肢体不自由の各特別支援学校に適うプログラムをそれぞれ構築するとしていたが、アンケートやインタビュー調査などの分析から、知的障害の特別支援教育への学習支援が遅滞していることが明らかとなった。さらに、知的障害の中でも程度の差が大きく、それぞれに適合させるためには少なくとも3段階のプログラムを準備する必要のあることがわかった。そこで、知的障害に対応できるプログラムの構築に的を絞って取り組むこととする。なお、軽度の知的障害対応プログラムは、盲・聾・肢体不自由にも適応できるはずである。あわせて、関東地域を対象にした博物館による特別支援学校への学習支援の実態調査を継続して、データベースを完成させる。 最後に、出前講座の実践検討の成果と構築したデータベースを取り入れて、特別支援学校とその児童生徒の博物館学習を支援するガイドブックを作成する。また、構築した博物館インクルーシブ教育システムの研究を総括した報告書をまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
博物館出前講座で使用する物品の一部を既存品で再利用することができたため、若干の未支出が生じた。2019年度の出前講座の物品費に充当する。
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