研究課題/領域番号 |
17K01230
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
菊地 俊夫 東京都立大学, 都市環境科学研究科, 教授 (50169827)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | フードツーリズム / 農村再生 / 農村活性化 / 地域資源 / 重層構造 / 連坦構造 / 近郊農村 / 遠郊農村 |
研究実績の概要 |
今年度は新型コロナウィルス感染症の影響で予定された海外出張や国際会議での成果発表ができなかったため、これまでの調査で収集したデータや既存の統計データの整理し、それらの分析を進め、本研究の成果の取りまとめを大まかに構築する作業を中心に行った。具体的には、既存の研究成果を中心として、活力のある農村再生システムにおける戦略の内容を整理する作業を行うとともに、フードツーリズムのフレームワークの利点や新規性についてまとめた。明らかにされことは、フードツーリズムのフレームワークが地域資源を総合的に、かつ重層的に活用し、農村再生の恩恵がさまざまな人びとや場所にいきわたることである。このような仮説はこれまで行ってきたフードツーリズムのフィールドワークの資料整理からも実証された。例えば、フランスのノール県におけるビールツーリズムの場合、それぞれの農村に立地するブルワリーを核にして、自然景観や農村景観、および産業や生活文化が結びついてツーリズムの空間が構築されている。さらに、このようなブルワリーを核とする農村空間がいくつか連坦することによりフードツーリズムとしてのビールツーリズムが発展し、ひとつの農村だけでなく、いくつかの農村を含めた農村地域の再生が決定づけられる。ブルワリーを核とする農村と農村が連坦するビールツーリズムのフレームワークは、フランスだけでなくオーストラリアのシドニーやパースの近郊農村でも識別できた。他方、日本におけるビールツーリズムのようなフードツーリズムは、ひとつの農村の再生の切り札になることが調査で明らかにされているが、欧米の農村再生と異なり、農村と農村の連坦に基づく広域的な農村再生に至っていない。このような差異が生じた理由は、最終年度の調査と取りまとめ、および考察で明らかにしたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでの調査に基づいて、フードツーリズムのフレームワークを用いた農村再生システムを取りまとめ、国内外の会議で成果発表をする予定であった。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響で、国内外の会議が中止ないしは延期されたため、研究成果の発表や、それに基づく議論ができなかったことは研究の進捗に少なからず影響を及ぼしている。また、フードツーリズムのフレームワークを用いた農村再生の補足調査のフィールドワークを国内外で実施する予定であった。特に、研究代表者が詳細な現地調査を実施してきた地域以外、すなわち九州南部や中国山地、四国でのフィールドワークによる新しい知見が必要と考えていたが、新型コロナウイルス感染症の拡大により、不可能となった。それに対して、既存の資料や統計の分析、および文献の検討などの室内作業はかなり進み、従来と異なった形で研究成果の取りまとめを行うことができた。加えて、海外のフィールドワークはほとんど実施できず、従来に収集してきたデータ整理の整理と分析をもっぱら行った。その意味で、フィールドワークに遅れは生じたが、フードツーリズムのフレームワークの意味をじっくりと考察できたことは幸いであった。
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今後の研究の推進方策 |
フードツーリズムのフレームワークを用いた農村再生の仕方、あるいはシステムに関連して、ひとつの農村でみられる地域資源活用の重層構造と、いくつかの農村がひとまとまりとなって再生が推進される連坦構造を取りまとめとして精緻化する。また、フードツーリズムのフレームワークを用いた農村再生システムを国内外の会議で研究成果として報告し、多くの議論を経た後に国際誌に投稿する。本年度の成果から、フードツーリズムの重層構造と連坦構造がひとつのセットとなって農村再生に寄与している欧米諸国と、重層構造の発達はみられるが、連坦構造が未発達な日本との比較研究を行い、そのような地域的差異の要因を探るとともに、フードツーリズムのフレームワークを用いた農村再生の一般化を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は新型コロナウイルスの感染症の拡大で国内外の会議で研究成果の発表と、補足調査としてのフィールドワークができなかったことが、未使用額が生じた大きな理由である。研究者自身と官公庁や農業団体、農家などの被調査者のいずれの安全のためにもやむをえない状況であった。また、参加・発表を予定していた学会の学術大会や研究会のすべてが中止ないしは延期となり、研究の討論や議論のための出張もできなかった。一部の学術学会はリモートで行われたため旅費の全てが未使用となった。また、人件費も、所属大学の危機管理方針により学生を十分に雇用することができず、使用することができなかった。
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