研究課題/領域番号 |
17K01237
|
研究機関 | 皇學館大学 |
研究代表者 |
近藤 玲介 皇學館大学, 教育開発センター, 准教授 (30409437)
|
研究分担者 |
竹村 貴人 日本大学, 文理学部, 教授 (30359591)
宮入 陽介 東京大学, 大気海洋研究所, 特任研究員 (30451800)
坂本 竜彦 三重大学, 生物資源学研究科, 教授 (90271709)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 海成段丘 / pIRIR年代測定法 / リアス海岸 / 中期更新世 / 高分解能地形面編年 |
研究実績の概要 |
日本列島のリアス海岸における海成段丘は,鍵層が発見されないことなどのため,離水年代が不明である.そこで本研究では,リアス海岸の海成段丘を対象に従来とは異なる年代測定手法であるルミネッセンス年代測定法を適用し,リアス海岸における中期更新世以降に形成された海成段丘の高分解能な地形面編年をおこなうことを目的としている. 陸中海岸中部および志摩半島周辺,佐渡島北西部のリアス海岸を呈する沿岸部において,代表者の近藤が海成段丘の野外調査をおこない,機械式ボーリング地点を決定するとともに,複数露頭の記載をおこなった.なお,これらの野外調査と並行して,調査地域の段丘面分布図を作成した. 佐渡島北西岸の最下位の段丘面構成層を対象としたpIRIR年代測定の結果,MIS 5aないし5cに対比される可能性が示唆された(代表者の近藤と分担者の坂本が担当).この結果は,佐渡島の海成段丘群における初めての絶対年代である.また本地域では,沖積谷底において小規模な埋没化石林を見出した.分担者の宮入が放射性炭素年代測定を行った結果,樹幹化石から約6kaという年代値が得られた.この結果は完新世の佐渡島の相対的海水準変動などの議論に資する. 段丘を構成する海成層や被覆層の堆積年代算出だけではなく,波食棚の侵食年代の算出も試みるために,房総半島南端野島崎周辺および三浦半島城ケ島周辺において,大正関東地震の隆起ベンチの試料採取をおこなった.採取した岩石試料は,分担者の竹村とともに暗室内で層厚1mmごとに削り出し,ルミネッセンスの試料処理を行う方法を確立した.pIRIR測定の結果,隆起ベンチ表層の信号は十分にブリーチされている可能性が示唆された. なお,ここまで得られた研究成果の一部は,三重県津市教育委員会主催の地域の地形・地質に関する講演会や同南伊勢町でのワークショップを通じて,地域に還元を行った.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,近年堆積物の年代測定に有効であるとされるルミネッセンス年代測定法の中でも,最新の手法であるpIRIR年代測定法を適用し,絶対年代に基づく「リアス海岸の海成段丘」の発達史と地理的広がりから,最終的に地殻変動様式や酸素同位体サブステージとの関係を議論することを目的としている.研究対象地域は,平成29年度は陸中海岸・能登半島・志摩半島,平成30年度は奄美大島・佐渡島を中心とする予定であったが,天候・災害などの影響により,佐渡島を平成29年度に前倒しして調査を行い,能登半島を平成30年度におこなうものとした.平成29年度には,機械式ボーリング掘削を行う予定であり掘削地点の行政・住民との合議も概ね終えていたが,本研究の目的を達成するための技術力を持ったボーリング掘削業者の下半期の災害緊急対応などのため,平成30年度の5月末の掘削へ予定を変更した.このためボーリング試料の分析は予定より遅れているが,一方で陸中海岸および志摩半島,佐渡島での野外調査は当初予定していたよりも多くの地点で露頭の記載がなされ,なおかつpIRIR年代測定や化石林の発見に基づく放射性炭素年代測定も想定以上の成果となっている部分もあり,事前の予定よりも進捗している部分もある.また,三浦半島や房総半島南端部のほぼ現成の隆起ベンチの試料採取と試料処理方法の確立,ルミネッセンス強度測定も概ね順調であり,なおかつ研究対象地域の空中写真判読などに基づくマッピングも予定通りおこなった.さらに,平成29年度に得られた成果の一部については,地域での市民向け講演などでアウトプットをおこない,平成30年度以降も引き続き研究成果還元事業を行うことを自治体などと合議済みである. 以上の進捗状況から,本研究全体としては概ね順調に進捗しているといえる.
|
今後の研究の推進方策 |
平成30年度は,能登半島・奄美大島を対象に加え,まず空中写真判読をおこない,海成段丘の分類図を作成する(近藤).続いて,近藤が各研究対象地域において海成段丘地形を主対象とした野外調査を行う.野外調査では,地形と堆積物の記載,試料採取を行うとともに,平成30年度調査対象地域におけるボーリング掘削候補地点を決定する.平成29年度に既に調査を行った地域では,海成段丘そのものに加え,河成段丘地形・堆積物や,基盤岩も重点的な調査対象とし,河成段丘地形と海成段丘面の関係などから,旧汀線高度を復元する.平成30年度の秋期には,奄美大島・志摩半島のいずれかにおいて,機械式ボーリング掘削を行う.この掘削では,対象地域においてMIS 9,7に従来対比されている段丘面を対象として,総長10mの機械式ボーリング掘削を1地点で行う. コア試料は,三重大学において近藤と分担者の坂本が半裁・記載し,試料採取を行う.基礎的物性の分析作業等にあたっては,近藤・竹村・宮入が日本大学や東京大学においておこなう.各野外調査およびコアの記載後,近藤と宮入が日本大学の専用実験暗室においてpIRIR・RTL年代測定試料の処理をおこなう.これらのルミネッセンス年代測定にあたっては,三重大学の装置を使用し随時測定をおこなう(近藤と坂本が主に担当). 平成30年度は,埋没した波食棚の最終露光年代の推定にpIRIR年代測定法を適用する方法の,海成段丘への適用をすすめる.テフラ試料については,平成29年度と同様にテフラの同定に関する分析も行う. 平成30年度末には,国内学会において対象地域のMIS 9,7の海成段丘の分布とサブステージなどについて発表するとともに,日本の海成段丘の波食棚のpIRIR年代測定による最終露光年代の算出方法について査読付き雑誌に投稿する.あわせて,研究対象地域において一般向けの研究成果還元事業もおこなう.
|
次年度使用額が生じた理由 |
理由:平成29年度の計画の内,佐渡島で予定していた機械式ボーリングについて,掘削地点選定,地権者との交渉や地質コンサルタント会社との合議も終了していたが,自然災害(豪雪)により掘削業者の都合がつかなくなったため. 使用計画:平成30年度の5~6月中に,佐渡島での機械式ボーリングを行う.すでに日程の再調整などは終了しており,ボーリングコア採取が遅延した分,露頭調査での各種試料の処理が予定より早く進捗しているので,適切な執行が可能である.
|