研究課題/領域番号 |
17K01243
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
秋山 英三 筑波大学, システム情報系, 教授 (40317300)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 社会システム / シミュレーション / 被験者実験 / 人工市場 |
研究実績の概要 |
本プロジェクトでは、トレーダーの認知的性質およびその異質性がバブルの発生・崩壊や価格変動にどのような影響を与えるのかについて検証することを目指している。トレーダーのモデルを作成する上で、被験者実験を用いた分析が近年多く用いられるようになっており、特に、トレーダーの予測と実際の振舞いが市場の振舞いに与える影響を実験的に調べる手法が注目されている。しかし、トレーダーの予測を実験的に調査すること自体がトレーダーの行動に影響を与えてしまう懸念がある。本研究では、実際にその懸念が当たっているかどうかを検証するとともに、予測を実験的に調査しながらトレーダーの行動にできるだけ影響を与えない方法を探求した。そのため、予測の調査をする実験において、予測と取引の両方の成果に基づいてrewardを被験者が受け取る場合、あるいは、予測と取引のどちらかの成果に基づいてrewardを受け取る場合について比較検討を行った。分析の結果、予測と取引の両方の成果にrewardを付与する場合は、取引のみの市場と比べて有意な違いが発生してしまうことが分かった。一方で、予測と取引のどちらかの成果(ランダムに決める)に基づいてrewardを付与する場合は、取引のみの市場とさほど結果の違いが生じないということが分かった。つまり、トレーダーの市場取引に影響を与えずにトレーダーの予測の調査を行うには、予測と取引のどちらかの成果のみにランダムにrewardを付与するのが資産市場の実験的研究において良い方法となるということを示した。この成果は、もう一つの研究(トレーダーの自信と取引結果の相関を分析する研究)とともに、Journal of Economic Dynamics & Control誌に採録された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
資産市場において、トレーダー予測は市場の結果に大きな影響をもたらすが、その予測を実験的に調査するための妥当な手法が何かについては知られていなかった。本研究の結果から、今後実験的にトレーダーの予測を抽出したいときに、どのようにrewardを支払うべきか、について指針が与えられたことになる。今後、関連する研究を活性化する上で、一定の貢献をしたものと思われる。実際、この研究の成果は、定評のある国際学術誌 に採録された。また、資産市場研究とは異なるものの、その他のエージェントシミュレーション研究、被験者実験研究も国内外の学術誌に採録されている。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画に記したとおり、主体が獲得した「他者の合理性に関する知識・信念・期待」とその結果としての合理性・認知のレベルが価格形成に与える影響を分析するため、合理性を計測し、その異質性が市場の結果に与える影響を分析する研究を行っている(進行中の研究)。これまで得られた結果については既に各所でコメントを折らっており、それらの指摘をもとに、今年度の前半に追加で実験を行い、後半にはその成果を投稿する予定である。
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