研究代表者の中川は、多次元Hawkes過程による倒産リスク伝播構造の実証研究、および資本性証券プライシングの研究に関する日本語共著論文2編が査読論文誌に掲載された。前者は国際ワークショップで英語発表も行った。また、多次元Hawkes過程の応用として、株式板情報と価格変動の関係の分析にも着手し、ワーキングペーパーにまとめることに着手した。 錐形ファイナンスのアプローチに基づく最適ポートフォリオ構築の研究も分析期間を延長するなど継続し、2回の発表を行った。 錐形ファイナンスの株式市場への応用において重要な最良売買価格推定に必要となる株式板情報の整理において、Hawkes過程の拡張モデルが有用であるという知見が得られたことは大きい成果と言える。 一方、研究分担者の足立は、高頻度取引データを使った約定パターンの研究を引き続き行なうとともに、仮想通貨の板情報過程の研究もあわせて行った。昨年度開発したヒストリカル情報からCSVファイルを取り出すライブラリを利用し、機械学習の手法,より具体的には敵対的生成ネットワークの技術を用いて、人工的な市場の生成を試みた。 本研究に利用される圏論的手法についての研究、および仮想通貨への応用開発の研究に関する英語共著論文2編が査読論文誌に掲載された。また国内外での研究発表を6件行った。 大規模なバイナリ・データから抽出した板情報を入力することで、リアリティのある最良気配時系列の生成に成功した。これは高頻度マイクロ・ダイナミクスを錐形ファイナンスの観点から実証実験を行うためのデータ拡張に相当する成果である。この結果を拡充し、板情報過程を生成するとともに、圏論的確率論を使って理論的にも補完することで、新たなステップに進むための礎ができたと評価する。
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