本研究では,社会システム工学でしばしば考えられてきた人口や建物の密度を,新たに道路ネットワーク上の密度(沿道密度)としてGIS上で扱うための方法を追究し,その実践のためのソフトウェアツールボックスを開発することを目指してきた。とくに近年は,ビッグデータやオープンデータの流れの中で,市民が入手しやすくかつ自由に活用できる地理空間情報が活発に整備・提供されつつある。そうした社会的背景を踏まえて,本研究では,フリーGISデータの活用を視野に入れつつ,ソフトウェアツールボックスの開発を目指した。 令和2年度は,前年度までに考えてきたツールを紹介するため,具体的にどのような場面で利用し得るかを考えつつ,事例をまじえて,学会などで発表した。道路ネットワークのリンクに着目すると,ボロノイ分割の考え方に従って,沿道勢力圏としての沿道近傍領域を画定できる。これを応用すると,沿道世帯数の推計,さらにそれを踏まえたエリアマーケティングなどが実現し得ることを紹介した。また,私たちが日常生活の中で感覚的にとらえている「近く」という領域を図化しつつ,まちづくりなどの現実の場面でこれを活用することについても紹介した。 また,将来的に,この種のツールボックスを拡張する可能性についても議論を展開した。具体的には,防災分野での応用を想定し,避難所のバックアップに着目し,新たな避難圏域の考え方を提示するとともに,その圏域を図化したオーダnのボロノイ図とその生成ツールについて学会発表した。
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