研究課題
本研究の目的は、次の4つである。(i)企業のファンダメンタルズを実際の企業の財務データから数値的に推定する計量モデルを開発すること、(ii) 企業のファンダメンタルズを組み込んだ「バブルの発生と崩壊のモデル」を構築すること、(iii) 開発した理論モデルを用いて株価とファンダメンタルズの乖離を統計的に示すと同時に、バブル崩壊を予測すること、(iv) バブル崩壊が企業収益とマクロ経済に与える影響を定量的に示すこと、である。2017年度は、ビューロ・バン・ダイク社が提供する世界の上場企業約6万社の企業財務データベース「OSIRIS」(2004年から2013年まで)を利用して、7,796社の企業のファンダメンタルズの推定を行った。企業のファンダメンタルズを計測するモデルとして、「一株当たり配当金」、「一株当たりキャッシュフロー」、「一株当たり純資産」の3つを説明変数にし、株価を説明するパネルデータを使った回帰モデルを構築した。株価を説明する回帰式として、2方向固定効果モデルが最良のモデルとして選択された。この計量モデルから企業のファンダメンタルズを年毎に計算した。 次に、実際の株価のと企業のファンダメンタルズの乖離の分布を時系列的に分析したところ、リーマンショック前の乖離の分布が大きくプラスの側に位置していたのに対し、リーマンショックには大きくマイナスの方向にシフトしたことがわかった。この実証的結果は、株式市場が企業のファンダメンタルズから長期的に乖離しえることを示すと同時に、リーマンショックが一種の相転移(カタストロフィー)現象であることを示唆していることがわかった。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度の研究計画では、実データを使って、リーマンショックが起きた2008年秋の株式市場の世界的な暴落が相転移現象であることを実証的に示唆する結果を得ることであったので、研究実績の概要で述べたとおり、この目標は達成することができたと考えている。本年度の研究成果を2編の論文にまとめ専門雑誌に投稿中である。
平成30年度は、前年度に開発した企業のファンダメンタルズを計測する計量モデルをさらに発展させる予定である。特に、、将来キャッシュフローの割引現在価値で株式を評価する「DCF方式」を導入し、パネルデータを使った配当割引モデルを構築する予定である。そのモデルの有効性を検証するために、標準的な株式評価モデルとして考えられている残余利益モデルと比較し、株価の説明力などの比較を行う予定である。また、前年度に行った、リーマンショック時の相転移現象を寄り精密に調査する予定である。特に、株価と企業のファンダメンタルズの乖離がどの産業で特に起きているかを調査し、リーマンショックの実態に迫る予定である。
論文投稿のための校正費が予想よりも少額で済んだため。
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すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件)
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