研究課題/領域番号 |
17K01270
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研究機関 | 国際基督教大学 |
研究代表者 |
海蔵寺 大成 国際基督教大学, 教養学部, 教授 (10265960)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | バブル / バブル崩壊 / 企業のファンダメンタルズ / リーマンショック / 市場の効率性 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、次の4つである。(i)企業のファンダメンタルズを実際の企業の財務データから数値的に推定する計量モデルを開発すること、(ii) 企業のファンダメンタルズを組み込んだ「バブルの発生と崩壊のモデル」を構築すること、(iii) 開発した理論モデルを用いて株価とファンダメンタルズの乖離を統計的に示すと同時に、バブル崩壊を予測すること、(iv) バブル崩壊が企業収益とマクロ経済に与える影響を定量的に示すこと、である。
平成30年度は、前年度に開発した企業のファンダメンタルズを計測する計量モデルをさらに発展させた。特に、the Discounted Dividends Model (DDM), the Discounted Cash Flow Model (DCFM), the Residual Income Model (RIM)の3つの代表的な割引現在価値方式を導入し、株価を説明するパネル回帰モデルを構築した。ビューロ・バン・ダイク社が提供する世界の上場企業約6万社の企業財務データベース「OSIRIS」(2004年から2016年まで)を利用して、7,796社の企業のファンダメンタルズの推定を行った。株価を説明する回帰式として、2方向固定効果モデルが最良のモデルとして選択された。次に、実際の株価と企業のファンダメンタルズの乖離の分布を時系列的に分析したところ、リーマンショック前の乖離の分布が大きくプラスの側に位置していたのに対し、リーマンショックには大きくマイナスの方向にシフトしたことがわかった。この結果は、昨年、開発した3変数モデルで発見された現象と同じであった。結論として、リーマンショックのような大規模な金融ショック前後の期間には、株価は企業のファンダメンタルから大きく乖離することがわかった。また、株価とファンダメンタルズの乖離率を示す分布が正の方向にシフトする場合、株式市場がバブルを起こしている可能性が高く、金融危機によって、株価が急落する可能性があることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度の研究計画は、割引現在価値方式を導入し、株価を説明するパネル回帰モデルを構築すること、また、実データを使って、リーマンショック前後の期間に株価が企業のファンダメンタルズから大きく乖離することを実証的に確かめること、だった。研究実績の概要で述べたとおり、本年度の研究を通じてこの2つの目的は達成することができたと考えている。本年度の研究成果を論文にまとめ専門雑誌に投稿する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、前年度までに開発した企業のファンダメンタルズを計測する計量モデルを基礎に、株式時価総額を説明するパネル回帰モデルを開発し、企業のファンダメンタルズを反映する株式時価総額を計算する。次に、実際の株式時価総額が、ファンダメンタルズから計算される株式時価総額から乖離するかどうかを分析する。次に、Gabaix(2011)が提唱したGranular仮説が株式時価総額について成立しているかどうかを検証する。このために、株式時価総額の分布がパレート分布に従っているかどうかを確かめる。次に、時価総額が大きなtop企業(例えば、top 20社)の時価総額の変動が、市場全体の株式時価総額の変動をどの程度説明しているかを確かめる。この研究を通じて、株式市場のMacro risk tailの存在を確かめる。この研究を通じて、バブル崩壊が企業収益とマクロ経済に与える影響を定量的に示すことを目標にする。
Xavier Gabaix, The Graular Origins of Aggregate Fluctuations, Econometrica, Vol. 79, No. 3 (May, 2011), 733-772
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年6月に国際基督教大学で開催した国際会議WEHIA2018:The 23rd Workshop on Economics Science with Heterogeneous Interacting Agents の開催費用として経費を計上したが、招待講演者の旅費、滞在費などが予想よりも安く済んだため、次年度への繰越が生じた。 今年度は積極的にこれまでの研究成果を発表する予定で、国際会議への出席や論文投稿、論文校正などに使用する予定である。
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