研究実績の概要 |
本研究では、(i)企業のファンダメンタルズを実際の企業の財務データから数値的に推定する計量モデルを開発した。ビューロ・バン・ダイク社が提供する世界の上場企業約6万社の企業財務データベース「OSIRIS」(2004年から2013年まで)を利用して、7,796社の企業のファンダメンタルズの推定を行った。「一株当たり配当金」、「一株当たりキャッシュフロー」、「一株当たり純資産」の3つを説明変数にし、株価を説明するパネルデータを使った回帰モデルを構築し、個別企業のファンダメンタルズを時系列的に推計した。実際の株価と企業のファンダメンタルズの乖離の分布を時系列的に分析したところ、リーマンショック前の乖離の分布が大きくプラスの側に位置していたのに対し、リーマンショックには大きくマイナスの方向にシフトしたことがわかった。この実証的結果は、株式市場が企業のファンダメンタルズから長期的に乖離しえることを示しており、いわゆる「効率的市場仮説」に対する反証になっている。 次に、(ii) Gabaix(2011)が提唱したGranular仮説が株式市場においても成立しているかどうかを検証した。企業のファンダメンタルズを計測する計量モデルを応用して、企業のファンダメンタルズを反映する適正な株式時価総額を推計し、実際の株式時価総額との乖離を企業レベルのショック変数(Granular residual)とみなす残差回帰分析を行った。分析の結果、総株式時価総額の変化率の変動の約70%は、株式時価総額の上位100社の企業ショックによって説明できることがわかった。この実証結果から、Gabaix(2011)が提唱したGranular仮説が株式市場においても成立していることが確かめられた。
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