研究課題/領域番号 |
17K01277
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研究機関 | 金沢学院大学 |
研究代表者 |
石川 温 金沢学院大学, 経営情報学部, 教授 (90308627)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 株式市場 / POSデータ / ナウキャスト |
研究実績の概要 |
当初計画に従い、安定した株式市場の形成を目指し、商品の販売記録(POSデータ)を統計処理して企業のリアルタイムな業績を算出(ナウキャスト)する技術を開発するために、段階的に次の研究を進めた。1) データベースを整備し、POSデータベースと上場企業データベースの企業を紐づける。2) POS売上と実売上の相関より、ナウキャスト可能な企業・業種を統計的に明らかにする。 具体的には、全米に約38,000店舗あるスーパーマーケットの約5%をランダムサンプリングし、そのPOSデータを2001年から2012年まで集計した、IRi Growth delivered社が提供するデータベース『アメリカのスーパーマーケットのPOSデータ』の売上情報を製造企業別に四半期ごとで集計し、親会社レベルで連結した。次に、このPOSデータを集計して算出した売上(POS売上と呼ぶ)と、トムソン・ロイター社が提供するデータストリーム『世界各国の上場企業の業績と株価およびI/B/E/S評価』から入手した、上場企業が公表する連結決算の売上業績(実売上と呼ぶ)との比較を行った。 その結果、主要製品が日用品である企業の実売上の伸び率が、POS売上の伸び率と強く相関していることが観測された。そして、企業決算の売上高に占めるスーパーマーケットの売上の割合(カバー率と呼ぶ)が大きいほど、POS売上の伸び率と実売上の伸び率の相関が強くなることを確認した。これらの結果を用いて、カバー率が高い企業では、POS売上の前期比と前年同期比より、次期四半期決算の実売上を予測精度付きでナウキャスト可能なことを示した。本研究により、主要製品が日用品である製造業のようなカバー率が50%以上の企業であれば、POSデータを利用することによりその決算売上は、リアルタイムでナウキャスト可能であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画においては、上記「研究実績の概要」にある成果が得られている。 また、これまでの研究成果をもとに、下記「今後の研究の推進方策」にあるように、研究を次の段階に進める準備をしている。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように継続研究では、POS売上を用いて四半期に一度公開される企業売上をナウキャスト可能なことを定性的に観測し、その予測精度はカバー率に正に相関することを定量的に確認した。この予測精度は、大規模企業財務情報を取り入れ高くすることが可能だと考えられる。トムソン・ロイター社のI/E/B/S業績予測等では、長期的な企業財務データとアナリストの収集した情報より売上予測を行っているからである。この状況は、経済学の基礎理論をコアとして、実データとの差を大規模経済データの深層学習により補完するという、本研究課題の構造と非常に近い。また下記にあるように、ナウキャスト結果の公開を前提とする場合、個々のアナリストが収集した情報を省いた単純な手法が望ましい。 本研究の最終的な目的は、安定した株式市場の実現にある。四半期に一度の業績公開に起きる株価変動を小さくするため、企業業績を常に公にする手段としてナウキャストを提案しているが、株式市場の安定化には株価の変動予測の精密化は必要不可欠となる。株価変動を予測するランダムウォークを基礎理論とし、理論値と実データの差を大規模企業財務データとPOSデータの深層学習より補完するという構造も、本研究に適合している。 このように、これまでの研究成果等を経済学的基礎として、そこに情報学の最新技術である深層学習を組み合わせ、大規模経済データを分析対象として当該研究の研究成果を大きく発展させることを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画していた人件費・謝金は発生せず、その分を消耗品の購入に充てた。しかし、前年度までに購入したものでそのまま使えるものがあったため、その差額により次年度使用額が生じることとなった。これは、次年度の消耗品購入に充てる予定である。
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