研究課題/領域番号 |
17K01290
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
金 路 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 准教授 (00436734)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 信頼性 / 保全性 / 状態監視保全 / 最適保全方策 / 意思決定 / マルコフ決定過程 / 確率過程 |
研究実績の概要 |
本研究課題は逐次的に得られる監視情報を活用できるシステムに対し、保全行動とその実施時期を最適に定めるために最適保全方策の性質を究明することを目的とする。これまでは劣化過程が様々な要因を受けて変化する非定常なシステムにおいて、状態監視保全の意思決定のモデルを構築し、最適保全方策の性質を調べてきた。令和2年度はこれらの研究成果を踏まえ、研究計画に挙げられた課題を中心に研究を進めた。 1)監視装置の精度劣化を考慮した保全:離散時間マルコフ連鎖の下で、対象システムと監視装置の両方をカバーする保全計画のアルゴリズムと最適解の性質を検討した。監視装置の精度を表す条件付き確率分布がBlackwell orderを有することは最適保全方策の単調性を保証するための十分条件を明らかにした。 2)劣化状態が連続な場合の保全:本課題のこれまでの研究ではシステムの劣状態を離散化して取り扱ってきたが、実際に観測された劣化量は連続の場合が多い。令和2年度は連続時間確率過程の一つである幾何ブラウン運動を用い連続の劣化状態のモデル化を試みた。また、最適な保全行動は劣化状態と経過時間について切り替えが高々一回であることを示せた。この成果を国際会議で発表し、the best paper awardを受賞した。 3)機会保全:近接のシステムの故障等副次的な保全機会を加えた場合の予防保全(機会保全)の最適化問題に取り組んだ。これまでは劣化状態の推移が等間隔で、保全機会の有無も状態推移の時点でしか確認できないと仮定した。令和2年度は劣化の推移間隔が任意の分布へと拡張し、セミマルコフ決定過程の下で機会保全の最適方策が単調方策で与えられるための滞在時間の分布に関する条件を導いた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度の計画通り研究を推進することができた。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は本課題の最終年度にあたる。引き続き下記の計画で研究を進める。 1)状態監視保全と他の保全方式の併用:状態の変化にリアルタイムで応じる状態監視保全以外に、予め決められた時点で予防保全を行う計画保全がある。対象システムによって異なる保全方式を併用した方が効率的な場合が考えられる。先行研究は一つの保全方式に限定した場合の最適化がほとんどであったため、令和3年度は複数の保全方式の併用を検討課題にしたい。 2)負荷分散と保全の多目的最適化:マルチコンポーネントの中で稼働時の負荷をコンポーネント間で配分するシステムは負荷分散システムという。このようなシステムにおいて保全方策の工夫以外に、負荷の調整によって稼働率の確保と保全費用の削減を実現できる。令和3年度では負荷分散システムにおいて、劣化状態に応じた負荷配分の調整を行動の選択肢に追加し、多目的最適化問題に挑戦したい。 3)不確実性を考慮した最適保全方策:令和2年度までの研究は劣化状態の推移確率モデルと観測情報の確率分布が正確に与えられた前提で保全の最適化問題に取り組んできた。令和3年度は対象システムについての情報に不確実性を含む場合において目的関数にエラーベクトルの追加を検討し、これまでの意思決定のモデルを改善したい。また、保全方策に着目して最適解の感度分析を行う。 4)本研究課題の意思決定のモデルは投資戦略等、保全以外の分野への適用等、本研究を発展的に拡張していく可能性についても検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
国際会議が軒並みオンライン開催となり、余剰が生じた旅費の余剰分を、翌年度の論文投稿と国際会議参加の費用に充てさせて頂きたい。
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