研究課題/領域番号 |
17K01294
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
臼井 伸之介 大阪大学, 人間科学研究科, 教授 (00193871)
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研究分担者 |
森泉 慎吾 大阪大学, 人間科学研究科, 助教 (50735066)
太子 のぞみ 同志社大学, 心理学部, 日本学術振興会特別研究員(PD) (70632462)
上田 真由子 大阪大学, 人間科学研究科, 助教 (70823764)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 労働安全衛生 / 規則違反 / 不安全行動 / 安全教育 / ヒューマンエラー / ヒューマンファクター |
研究実績の概要 |
本研究の第一の目的は、すでに一部教育効果が確認されているエラー体験プログラムソフトメニューの一つである「違反体験(課題遂行中に生じる面倒感が作業省略に繋がることを体感する)」に着目し、その面倒感生起の要因となる課題コストの適切な評価能力の養成を目指した安全教育プログラムを確立することである。さらにそのコスト評価に着目したエラー体験プログラムを用いた安全教育を、鉄道会社作業員、バス運転手など広範な職種の従事者に実施し、その教育プログラムの有効性を実証的に確認することを第二の目的としている。 研究の2年目では、教育プログラムの有効性評価で使用する指標について検討した。研究では、これまで使用してきたヒューマンエラーの生起傾向を測定する質問紙(DBQ)や個人のリスク傾向を測定する質問紙(RPQ)に加えて、リスク評価からリスクの敢行(または回避)に至るまでに介在するベネフィット評価の個人差を測定する質問紙を作成した。作成に際しては、まず日常生活でのリスク行動を10種選定し、次にSlovic(1987)のリスク認知の構成要素の研究等を参考に、直感的な良さ、制御可能性、自発性など6項目について、その「得がある」と感じる程度を7件法で評定することを求めた。調査会社を通して500人を対象にWeb調査を実施した結果、ベネフィット認知の構成要素として、直感的判断など、経験的システム(system 1)による認知(因子1)と、分析的システム(system 2)による認知(因子2)の2つの因子が抽出された。以上の結果を踏まえて、ベネフィット認知の個人差を測定する新たな質問紙を作成し、次年度予定している教育プログラムの効果測定に使用することした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の2年目では、教育プログラムの有効性評価で使用する指標について検討した。これまでのエラー体験システムを用いた教育プログラムでは、ヒューマンエラーの生起傾向を測定する質問紙(DBQ)や、個人のリスク傾向を測定する質問紙(RPQ)などを用いてきた。ただしリスクテイキングのプロセス(蓮花、2000)において、リスク評価からリスクの敢行(または回避)に至るまでには、リスクの効用評価、すなわちベネフィット評価が介在している。ベネフィット評価はコスト評価の表裏の関係にあり、リスク受容に伴うベネフィット認知の個人差を測定することには意味がある。そこで教育プログラムの有効性評価で使用する指標として、リスク受容に伴うベネフィット認知の個人差測定に特化した質問紙作成を試みた。研究ではまず日常生活でのリスク行動を10種選定し、またSlovic(1987)のリスク認知の構成要素の研究等を参考に、直感的な良さ、制御可能性、自発性など6項目について、その「得がある」と感じる程度を7件法で評定することを求めた。Web調査会社を通して500人を対象に調査した結果、ベネフィット認知の構成要素として、直感的判断など、経験的システム(system 1)に基づく因子1と、分析的システム(system 2)に基づく因子2の2つの因子が抽出された。また因子1は信号無視、駆け込み乗車などの社会的リスク行動と関連が深く、因子2はタバコ、パチンコなど個人的リスク行動と関連することが示された。以上の結果から、ベネフィット認知の個人差を測定する新たな質問紙を作成した。また、安全教育プログラムの有効性を検討するための調査対象として、鉄道会社、バス会社、電機部品製作会社などを選定し、調査についての事前打ち合わせ等準備作業を行った。以上の経過から、本課題においてはおおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
研究の最終年度である3年目では作成した新たな安全教育プログラムの有効性を検討するため、体験ソフトを用いた教育を組織的に実施する。調査対象として、鉄道会社、バス会社、電機部品製作会社を予定している。調査では教育を実施する群(実験群)と実施しない群(統制群)を設定し、ヒューマンエラーやコスト・ベネフィット評価に関する質問紙等を教育前後に実施する(教育前調査は研修の約1週間前に実施する)。また特に鉄道会社作業員には、使用する営業車にドラレコを装着し 教育前後約1ヶ月期間内での実走行データを取得する。バス会社運転手については、前後1年間の事故、違反歴を取得する。さらに教育6ヶ月後に教育を受講した同一受講者に対して、教育前後で実施した質問紙とほぼ同一の内容の質問紙に回答を求める。統制群には教育群とほぼ同時期に同じ質問紙に回答を求め、ドラレコデータも取得する。 教育前後の質問紙調査の比較で、実験群においてのみ教育後質問紙の安全傾向(特にコスト・ベネフィット評価)に向上が見られ、教育前後ドライブレコーダデータの比較で、実験群においてのみ実走行の安全傾向が高まり、教育前後1年間の事故・違反データの比較で、実験群においてのみ教育後の事故・違反のデータに減少がみられ、さらに教育後と教育1年後の質問紙結果の比較、および教育後と教育1年後のドライブレコーダデータの比較で、教育後に向上した安全傾向の高さが維持されていることが確認できれば、研究の目的であるコスト評価に着目した安全教育プログラムの有効性は確認されたと言える。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究2年目で予定していたエラー体験プログラムを用いた教育効果を測定する実験であるが、対象会社との打ち合わせ等の調整に時間がかかり、実施までには至らなかった。そのため、ドラレコ等購入等、調査に係る予算や調査協力者への謝金等を使用せず、当初予定していた予算額を下回ることになった。なお、繰り越した予算については、次年度予定している安全教育プログラムの実施において、当初予定よりも多くの調査対象者に実施するため、必要となる予定である。
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