平成31年度は、実際の石油精製プラントで使用されている加熱炉鋼管での検証実験を行い、実用化における検討を行った。 実際に20年以上に渡り石油精製プラントで使用されてきた加熱炉鋼管の一部を切り出し、断面マクロ試験で表裏面浸炭深さが予め把握できている浸炭鋼管を準備し、本研究で提案した電磁気検査手法を用いて、検査精度の確認を行った。実物の浸炭鋼管は、人工的に短時間で作製した浸炭鋼管とは炭素の浸透過程が異なり、また炭素以外の物質の混入や錆、腐食、減肉等の物質・形状・形態変化が生じている。そこで、これら様々な変化にも影響を受けず、表裏面浸炭深さを検査できる検査条件を、検証実験を中心に実施した。特に、実現場での検査において、最終的な目標値である±0.5mmの検査精度が達成できるかについての検討を行った。なお本研究で得られた知見をまとめて以下に示す。 (1)500Hzを印加した場合、浸炭層は生層に比べ電磁気特性が低いため、表面浸炭深さの増加と共に鋼管表面に漏れる磁束も増加することが分かった。15Hzを印加した場合、鋼管内の裏面浸炭の増加と共に生層と鋼管表面に分布する磁束も増加するため、裏面浸炭深さの測定が可能であることが分かった。したがって表裏面浸炭深さは、鋼管表面に漏洩する磁束の変化率で評価できることが分かった。 (2)本提案手法は2種類の周波数500Hz、15Hzを交互に使用することで表裏面浸炭深さが推定できる可能性がある。しかし、本手法は磁気ヨーク材の両足間の平均的な磁束密度を漏洩磁束として検出し、表裏面浸炭深さに関連付けているため、鋼管軸方向において浸炭深さが著しく変化している場合は、推定誤差が大きくなると考えられる。
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