研究課題/領域番号 |
17K01303
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研究機関 | 広島市立大学 |
研究代表者 |
小野 貴彦 広島市立大学, 情報科学研究科, 教授 (20312613)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 防振 / 救急車 / 振動計測 |
研究実績の概要 |
脳血管障害で搬送される傷病者は,高血圧の状態にあることが多く,最高血圧が200mmHgを超えることも稀ではない.そのため,頭部にわずかな振動が作用しただけでも,再出血や脳動脈瘤破裂を起こす危険性がある.振動の主な要因は,道路路面の凹凸である.安全安心な救急搬送を実現するためには,この路面凹凸に対処する必要がある.本課題の目的は,IoT技術を活用して,過大な振動を引き起こす路面の凹凸箇所を事前に特定しておき,その場所を通過する前に振動吸収特性を最適に調整する予測型セミアクティブ防振架台を試作し,振動吸収率の改善を実験的に確認することである. 2020年度は,防振ベッドの低床化を想定した小型実験装置を新規に製作し,ばね上質量を5~30kgまで5kg刻みで変えながら,ダンパの減衰力の最適化実験を実施した.また,救急搬送中に発生する実際の上下振動を実験装置で再現するために,救急車3台から合計461件の救急搬送中の走行位置,速度,加速度も取得し,現実的な振動マップを作成した.一方,より現実的な環境で予測調節の有効性を確認するために,現行救急車に搭載されている空気圧式防振架台への適用を開始した.ただし,ダンパの取り付け作業が年度内に終了せず,有効性の検証は次年度に持ち越すこととなった. ダンパの予測調節が有効性に機能した場合,路面劣化箇所の通過前後で加減速の頻度が減ることが予想される.この頻度減少の生体への効果を評価するためのツールとして,加減速に由来する心拍変動のコンピュータシミュレーションモデルの構築も試みた.さらに,ナビゲーションシステムに連動した予測調節の実現可能性を調査するために,実搬送経路とGoogleマップナビによる経路との比較し,病院までの搬送経路の決定で既存ナビゲーションが使用できるか検証した.この2件の結果は,成果として公表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2020年度に予定していた課題は,車載可能な小型実験装置の製作と,それを用いた予測調節法の有効性検証であった.装置製作は完了したが,小型ゆえにばね上質量を最大30kgまでに制限する必要があった.その結果,負荷が軽すぎて,自動調節可能なMRダンパが機能せず,その対応策として手動調節式ダンパに置き換えた.これにより,上位コントローラと実験装置が分離する形となり,車両の位置と速度の測定からダンパの予測調節までの一連のプロセスの有効性までは確認できなかった.この分離問題を解決するために,現行救急車で使用されている空気圧式の防振架台にMRダンパを組み込む作業に取りかかった.ただし,コロナ感染症防止対策のために,研究協力者の力を得ることができず,年度内に作業は完了しなかった.前年度の実験装置の再設計による遅れもあり,当初の予定よりも進捗が遅れる結果となった.2020年度が研究最終年度であったが,終了を1年間延長することで対応することとした.
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今後の研究の推進方策 |
小型実験装置と現行防振架台を使い,予測調節法の有効性を検証する.小型実験装置では,測定した救急車の振動を再現しながらダンパの最適値の適用による効果を検証する予定である.一方,現行防振架台では,車両の位置と速度の取得から予測調節までの一連のプロセスに問題がないか確認する予定である.実験車両を用いた実験は,多人数の協力が必要であるため,新型コロナウィルスの蔓延状況を見ながら実施の有無を検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を遂行する上で必要な物品の購入等はすべて支出したため,純粋な残額である.研究の進捗の遅れから,研究期間を1年間延長したが,残額は最終年度に実験で使用する消耗品の購入および通信費等に充てる.
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