脳血管障害で搬送される傷病者は,高血圧の状態にあることが多く,頭部にわずかな振動が作用しただけでも,再出血や脳動脈瘤の破裂を引き起こす危険性がある.振動の主な要因は,路面の凹凸である.本課題の目的は,過大な振動を引き起こす路面の凹凸箇所を事前に特定しておき,その場所を通過する前にダンパの硬さを最適に調節することで,振動吸収率を向上できるか確認することである.最終年度は,研究協力者の企業と連携して,実車による走行実験を行い,振動吸収効果を確認した.使用した防振ベッドは,前年度に試作した磁性粘性流体式の可変ダンパを装着した実寸大のベッドである.スマート端末の内蔵GPSセンサで自車の位置を1秒間隔で測位し,事前に登録された路面凹凸箇所から20m以内の領域に入ると,スマート端末からマイコンボードに無線でその情報を送信し,マイコンボードボードがDAコンバータを経由して,可変ダンパの硬さをデータベースの登録値に自動的に変更されるように構築した.実験は,高規格救急車の設計検討用車両に試作ベッドを搭載して行った.ストレッチャには,傷病者の代わりに,質量120kgの鉛板を乗せた.アスファルト舗装の直線コースに1辺2cmの角材を2m間隔で5本設置し,その上を時速40km/hで通過することで,連続振動を発生させた.実験の結果,予測制御の一連の動作が問題なく行われること,およびダンパの硬さの切り換えにより,防振性能が向上することを確認した.この成果は,連携企業との共同で成果発表した.研究期間全体を通して,ダンパの硬さを予測調節することで,振動吸収効果を向上できることを実車実験で確認し,研究目的を達成することができた.主要な研究成果は,実機で目的を達成できたこと,および予測制御技術の特許登録まで至ったことである.研究協力者の企業との連携も進み,次の実用化の検討に入れたことも大きな成果である.
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