最終年度は研究計画通り、水理実験を実施せず、前年度までに得られた実験データ(氾濫水密度、遡上距離、土砂堆積距離、土砂堆積厚、津波荷重)の取りまとめと活用を行った。 実験データの取りまとめとして、先ず津波氾濫水密度の簡易評価法を考案した。本評価法は氾濫水断面平均の土砂濃度(~氾濫水密度)を対象とし、掃流土砂と浮遊土砂を分離せずに全流送土砂で論じている点に特徴がある。次に、氾濫水密度と波周期のRC造建築物に作用する津波荷重(水平力と鉛直力)への影響を検討した。実験データおよび実験結果の比較・検討法が限定的であるが、氾濫水密度と波周期がRC造建築物に作用する津波荷重へ影響することを実証し、建築物前面浸水深や前面浸水深係数(前面浸水深/入射氾濫水深)が同じ場合、1)水平力は、氾濫水密度が高くなれば、波周期に関係なく大きくなり、波周期が長くなれば、次第に増大率が落ちるが大きくなること、2)鉛直力は、氾濫水密度が高くなれば、波周期が長い場合には大きくなり、波周期が短い場合には建築物周りの土砂堆積の状況次第で小さくなる場合があることを明らかにした。 実験データの活用として、津波氾濫水密度の簡易評価法の考案過程において、多様である移動床下の氾濫流の抵抗則を論じ、摩擦損失係数を例示した。例示した摩擦損失係数は平均的に移動床下の定常流におけるものの2倍程度であった。 また、現地調査で得られる浸水深や土砂堆積厚などのデータを用いて氾濫水断面平均の土砂濃度や密度を概算する方法を考案し、その有用性を2018年7月の西日本豪雨による倉敷市真備町地区の洪水氾濫域における現地調査を通して確認した。 さらに、津波遡上に的を絞り、最大遡上距離や遡上高、遡上過程への氾濫水密度の影響を理論的に検討する道筋を示した。
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