平野部の直下に存在する活断層や盆地端部では,地下構造が急変することが多く,その周辺では地震動の空間変動も大きくなる.この研究では,断層近傍などの地下構造急変地域での中小地震の記録から深部地盤の不整形性を同定する方法を開発することを目的としている. 2019年度は,今まで開発してきた波形逆解析法を関東平野西部の複数の測線で得られている強震記録に適用し,盆地端部から平野中心部に至る各測線下の深部地盤の2次元S波速度構造モデルを推定した.各観測点での強震記録のラブ波成分から,2次元伝播を仮定できる部分を周期毎に抽出する前処理を実施することによって,周期1~10秒までの広い周期帯域のラブ波を逆解析に使うことを可能にした.その結果,地震基盤上面の深度分布だけでなく,深部地盤内部のS波速度境界面の形状も推定することができた.推定した2次元深部地盤構造モデルを既往の探査結果などと比較して,より矛盾の少ないモデルであることを示した.さらに,各測線での2次元モデルを用いて,既存の3次元深部地盤モデルの盆地端部の形状を含めた修正を行い,新しい3次元モデルを構築することを試みた.新しい深部地盤の3次元モデルを用いた地震動シミュレーションを行い,既往の深部地盤モデルに比べて,観測された強震動のS波部分だけでなく,後続位相の特徴もよりよく説明することができた. 本研究で開発した方法を小千谷市での微動観測記録の地震波干渉法解析による相互相関関数から得られたラブ波へも適用した.上述の前処理によって,数地点での周期0.5~2秒のラブ波を抽出し,逆解析を行った.その結果,小千谷市中心部の深さ300m程度までの2次元S波速度構造モデルを推定することができた.この結果は,地震記録の少ない地域へも本手法が適用可能であることを示しており,多くの地域において本手法を適用できると期待される.
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