研究課題/領域番号 |
17K01339
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
松本 佳宣 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (60252318)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | センサ / IoT / 環境計測 / クラウド / 機械学習 / 時系列 / 予測 |
研究実績の概要 |
環境情報をセンサ・IoT技術により測定・収集して、クラウドサーバー上で時系列データ予測と警告を行うシステムをハードウェアおよびソフトウェア両面から研究・開発を行うのが本研究の目的である。特にハードウェアの対候性・長期安定性の改善を進め、数年間を超える連続運転を可能とするために、ガラスコーティング型太陽電池とアルミダイキャスト製ケースを採用して、その内部に入れるセンサ、およびマイコン・無線モジュールも-10℃~40℃程度で安定動作して、部品劣化のないものを選定した。太陽電池は真夏などは過発電状態となり、これが充電回路にダメージを与える事がわかったため、定電圧ダイオードによる保護方式を採用して、装置の安定度を向上させた。現在、一年目を超えて安定に動作する事が確認され、さらに動作検証を進めている。 無線方式に関してはWi-Fi式の他に3G方式の無線モジュールでクラウドへデータの間欠的アップロードが安定に行える事を確認した。現在、横浜市、調布市、仙台市で検証を進めており、さらにインドネシアに設置した装置からも日本国内のクラウドにデータアップロードしてユーザに可視化できる事が確認でした。今後はクラウド側の機能としてセンサデータの上限値や上昇値などに応じてユーザ・自治体などへ警告メールを送信するなどの機能を持たせる方法の確立や、予測と警告のアルゴリズムに関して時系列データの状態空間モデルなどを用いて実現を目指していく。このため、Python言語によるデータ解析や、機械学習アルゴリズムの調査、検討を進めており、クラウドのソフトウェアを含めて、選定、設計、プログラムを進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度はIoTセンサと機械学習による計測システムの基礎技術の確立を行った。IoTセンサの対候性・長期安定性の改善に関して、ハードウェアに関しは太陽電池で自立した計測プラットフォームのその筐体を設計・試作・評価を行った。研究室で蓄積された成果を生かして、データ送信頻度向上と耐候性と長期安定性を確立できた。長期の安定性と耐候性を実現するためには筐体設計が重要であり、所有する3Dプリンタなどでの設計も行ったが、最終的には協力会社のアルミダイキャストとOリングによる封止技術を生かして装置を作成して、自治体や他大学の協力を得て設置を行い測定を行った、 一方、予測・異常値問題に関して、機械学習はコンピュータが「データの集合」から「その法則性」を学ぶことを意味しているが、法則性を記述するのに用いるモデル(確率分布など)は適宜選択する必要がある。また、そのモデルの持つパラメータは、目的が異常値検知なのか分類・判別なのかによってパラメータの種類や次元が変化する。機械学習を実現するパッケージとしては、AWSなどの商用パッケージの他に、PythonやR言語、Jubatusなどのフリーウェアがあり、データの前処理と特徴抽出を行う特徴ベクトル変換器、多値分類、線形回帰、推薦(近傍探索)、グラフマイニング、異常検知、クラスタリングなどの機械学習ライブラリが使用できる。これらを調査、整備して得られたセンサデータと比較して環境計測予測アルゴリズムの基礎を確立しつつある。 国際化に関しては研究代表者のハードウェア・ソフトウェアに対する知識経験と欧米で開発されつつあるクラウドプラットフォームや公開ライブリィを融合させてさらに小型化と汎用化を進めていく見通しが立ち、インドネシアの大学などとの連携も進めている。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は時系列予測のモデル確立を行う。環境計測データは時系列データとなるが、その変動要素として・長期にわたる傾向変動(トレンド)・1年・1週・1日などを周期とした季節変動・数年を周期とした循環変動・不規則変動がある。機械学習で最も有名なホテリング理論ではデータは平均値と分散を持つ正規分布に従うと仮定しているが、時系列データのパラメータは動的に変化するため推定される正規分布が不適切になり異常値の評価が甘くなる。このため適切な手法を用いて元データ、季節変動、トレンド、残差(ランダム成分)を考慮しつつ過去の時系列データから将来を予測することが必要である。 本申請ではARモデル(自己回帰モデル)を第一候補として利用するが、ARモデルでの予測が難しい場合は、ARMAモデルやK近傍法などの機械学習アルゴリズムに関しても調査を行い、本研究の目的に最も適したモデルを用いて予測を行なうことで様々な時系列データに対して適切な予測が可能になる。 時系列データには数値そのものが大きく変動する異常値の他に変化点と呼ばれる異常がある。変化点は時系列データのパターンが急激に変化する箇所を検知するための手法であり、パターンが変化する要因として環境変化、外乱や周波数変動などがある。このような変化点検知の手法として、信頼性のある“予測モデル”を用意して将来のデータを予測しながら、予測値と実測値のずれを異常度と定義して変化点を検知する事を行う。この変化点を防災における警告として連動させ平成30年度に短時間予測と警告アルゴリズムを確立させる予定である。
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