研究課題/領域番号 |
17K01339
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
松本 佳宣 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (60252318)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | センサ / IoT / 環境計測 / クラウド / 機械学習 / 時系列 / 予測 |
研究実績の概要 |
環境情報をセンサ・IoT技術により測定・収集して、クラウドサーバー上で時系列データ予測と警告を行うシステムをハードウェアおよびソフトウェア両面か ら研究・開発を行うのが本研究の目的である。初年度は、主にハードウェアの開発と実証実験を行い国内外に設置した装置から日本国内のクラウドサーバーにデータアップロードして可視化を行った。2年目はそれらのデータをPython言語によるデータ解析や、機械学習アルゴリズムにより予測・警告するシステムの構築と精度検証を行った。 環境計測データは時系列データとなるが、その変動要素として長期にわたる傾向変動(トレンド)や1年1 週1日などを周期とした季節変動、さらに数年を周期とした循環変動と不規則変動がある。このため適切な手法を用いて元データ、季節変動、トレンド、残差(ランダム成分)を考慮しつつ過去の時系列データから将来を予測することが必要である。ARモデル(自己回帰モデル)などの検討も行ったが、本研究ではリカレントニューラルネットワークの一つであるLong Short Term Memory(LSTM)を用いて時系列データに対して予測を行った。特に、予測対象データに加えて相関のある他の環境データを特徴パラメータとして加えた多変数回帰予測に取り組み予測精度の向上を行った。 一方、時系列データには数値そのものが大きく変動する異常値や変化点と呼ばれる異常がある。環境変化、外乱や周波数変動などによる変化点検知を農業、防災などにおける警告として連動させるシステムはIoT技術の新展開として有用であり、低価格で運用可能な第一次産業や途上国向けのクラウドシステム構築に目処を付ける事ができた。今後、初年度のハードウェア開発と2年目ののソフトウェアとアルゴリズムの成果を生かして社会実装と評価に取り組む予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度はIoTセンサの対候性・長期安定性の改善を行い太陽電池で自立した計測プラットフォームとその筐体の設計・試作・評価を行った。2年目においては、ハードウェアとして風力によるIoT電源の開発にも取り組んだ。また、機械学習による時系列予測では商用パッケージの他にPython言語などを利用した。それらを用いてデータの前処理と特徴抽出を行う特徴ベクトルの選定を行い、多値分類、線形回帰、異常検知、クラスタリングなどの機械学習のアルゴリズムを蓄積する事ができた。一方で、気概学習はアルゴリズムとデータによる依存度が高く予測原理がブラックボックスとなってしまう問題もある。特に予測精度が80%程度で飽和してしまう場合に改善手法がなく予測原理の説明も不明瞭となる。これらの特性を生かした上で有用な用途として異常値検知がある。特に第一次産業や途上国など予算規模が少ない中でもある程度の精度の予測が必要な場合、新しいコンセプトの社会実装をする事が望まれている。そこで、自治体や他大学の協力を得て測定対象の目的が異常値検知なのか分類・判別なのかを明確にしてパラメータの種類や次元を選定する事とした。これらを整理した上で、徐々に環境計測予測アルゴリズムの基礎を確立しつつある。 国際化に関しては今後経済発展が見込まれるアジア・アフリカ諸国を念頭に、IoT技術、半導体センサ技術を用いて高耐久なIoT環境ステーション(モニタリングポスト)を開発し、実フィールドでの動作実証を行う準備を進めている。無線に関してはWiFi/3G回線の他にIoTセンサ無線(Sigfox、LTE-IoT)を用いて動作電流を抑え、ソーラー・風力併用駆動電源によって駆動を行う。今後、計測データのクラウド上での可視化と簡単なメッセージ伝達機能を実現して、途上国での環境アセスメント、健康影響評価に寄与する事を構想している。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は途上国向けのIoT環境計測モニタリングポストの製作と設置を行い、測定により得られた時系列データを用いて季節変動、トレンド、残差(ランダム成分)を考慮しつつ予測と警告発生アルゴリズムの確立を行う。途上国の大気化学測定においては現地の要望に応じて温湿度、気圧、日射量、PM2.5/10、CO2、SO2、NO2、CO、O3などのデータを同時測定する必要があり、複数のセンサ接続と低消費電力を両必するプログラム開発を行い、無線によるクラウドアップロードを実現する。SO2、NO2、CO、O3などの電気化学センサに関してはセンサベンダと情報交換しながら精度(オフセット、センサ感度ばらつき)の確認をして、物理量センサとのフュージョン相互補正により健康や農業に必要な環境データを中心に可視化を行う。ローパワー通信方式との組合せ実装により、基本的にはソーラー発電のみで連続運転させるが、途上国の雨季の状況に応じては適宜風力やAC電源を組み合わせたシステムとする。 時系列データには数値そのものが大きく変動する異常値の他に変化点と呼ばれる異常がある。変化点は時系列データのパターンが急激に変化する箇所を検知するための手法であり、パターンが変化する要因として環境変化、外乱や周波数変動などがある。予測値と実測値のずれを異常度と定義して変化点を検知する事を行う。この変化点を防災や農業分野における警告として連動させるアルゴリズムを日本気象協会や途上国環境省の協力のもと研究開発を行う予定である。機能試作と評価は国内で行い、最終的にルワンダ・インドネシアいずれかでフィールド実証を行う事を計画している。
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