研究課題/領域番号 |
17K01340
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研究機関 | 工学院大学 |
研究代表者 |
村上 正浩 工学院大学, 建築学部(公私立大学の部局等), 教授 (90348863)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | オールハザード / ビックデータ / 被害予測 / 災害対応計画 |
研究実績の概要 |
本研究では、新宿駅周辺地域をケーススタディとして、震災・水害に起因する複合災害を対象にオールハザード・アプローチによる危機対応モデルを構築することが目的である。初年度は、災害時の暴露人口特性の把握と人的被害の予測に重点をおく。対象範囲はデータ整備の都合から新宿駅を中心とした東西約3km、南北約3.5kmとした。 まず、携帯電話の運用情報から面的な人口統計情報が推計可能な「モバイル空間統計」を使用し、2016年7月・10月・2017年1月・4月の季節別の平日・休日について、年齢別・性別・居住地別の人口統計情報を250mメッシュ単位で1時間ごとに整理し、対象地域の人口分布・人口流動の特性を地理情報システム上で空間的・定量的に把握した。また、国籍別については1kmメッシュ単位で整理し、対象地域には年間を通じてアジア圏の訪日外国人の割合が高いことなども確認した。このようにモバイル空間統計の活用により、災害時における対象地域の暴露人口の特性を明らかにすることができた。 また、対象地域内の人口が最大の約49万4千人となる4月平日15時について、「建物内人員積み上げ法」を併用することで、対象地域内の屋内滞留者数・屋外滞留者数・地下滞留者数を250mメッシュ単位で推計することにも成功した。この推計結果を用いて、東京湾北部地震(M7.3)の被害想定をもとに群集行動シミュレーションを実施した結果、建物の構造的被害や室内被害、ライフライン被害により膨大な数の就業者・来街者が屋外へ避難し新宿駅や避難場所に集中することで、当地域は数時間にわたって人も移動できないほど混乱状態となり、救命救助活動等に多大な影響を及ぼすことなどが明らかになった。さらに東海豪雨(2000年9月)程度の豪雨が複合して発生したことを想定すれば、避難場所等への屋外避難も困難となり、人的被害がより深刻化する状況を確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画では初年度の平成29年度は、モバイル空間統計の活用により災害時の暴露人口特性を把握し、さらに被害想定やハザード情報、群集行動シミュレーションにより対象地域の災害特性を明らかにしたうえで、震災・水害に起因する複合災害の被害を予測することを目標とした。上記の研究実績の概要のとおり、平成29年度はモバイル空間統計をもとに対象地域の災害時の暴露人口特性を明らかにした。さらに、対象地域で懸念される想定の東京湾北部地震(M7.3)や東海豪雨(2000年9月)程度の豪雨を想定した洪水ハザード情報、また東京湾北部地震時を念頭においた群集行動シミュレーションによる結果を総合し、震災・水害に起因する複合災害による被害予測を行った。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は前年度の被害予測結果をもとに、米国のオールハザードの危機対応システムの考え方を示した「National Response Framework」を参考に、緊急援助機能(たとえば、輸送、消防、応急対応、被災者のケア・応急対応のサポート・住宅供給・福祉、後方支援の管理・資源のサポート、公衆衛生と医療サービス、など)に即した災害対応計画を策定する。さらに米国のインシデント管理システム「National Incident Management System」等を参考にしつつ、オールハザード・アプローチによる危機対応モデルのプロタイプの構築を目指す。平成31年度には、地域事業者・防災行政機関・新宿区等約70団体で構成する新宿駅周辺防災対策協議会による地域防災訓練等と連携して、プロタイプモデルの効果検証を行い、モデルのブラッシュアップを図る。最終年度となる平成32年度には、本協議会の総意のもとで新宿駅周辺地域の災害対応計画として社会実装の準備を進めつつ、研究成果をまとめる。とくに最終年度の協議会の総会(6月予定)において事業者等から総意が得られないことも想定されるが、その場合には総会での意見を可能な限り反映したモデルへと改良し、最終年度の11月実施予定の地域防災訓練で改めて効果検証を行い、実装を進める。
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備考 |
学協会以外での招待講演として、村上正浩:ターミナル駅周辺地域のエリア防災対策、第62回エネルギー・環境講習会(主催:東京ガス)、2018年2月15日、村上正浩:新宿駅周辺地域の帰宅困難者対策・地震防災対策-新宿駅周辺地域の帰宅困難者対応の経験を踏まえて、2017年度第1回三宮駅帰宅困難者対策協議会、2017年8月10日、がある。
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