研究課題/領域番号 |
17K01347
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研究機関 | 国立研究開発法人防災科学技術研究所 |
研究代表者 |
平島 寛行 国立研究開発法人防災科学技術研究所, 雪氷防災研究部門, 主任研究員 (00425513)
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研究分担者 |
渡辺 晋生 三重大学, 生物資源学研究科, 教授 (10335151)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 積雪変質モデル / 3次元水分移動モデル / 水みち / 湿雪 |
研究実績の概要 |
平成30年度は、水みちを考慮したSNOWPACKと3次元次元水分移動モデルの比較を進めた。実データと比較するため、過去に行った室内のカラム実験、野外での散水実験、及びX線CTを用いた湿雪変質実験の3つの実験を対象に双方のモデルを用いて再現計算を行った。浸透過程の計算結果から動画等を作成して比較した結果、3次元モデルと水みちを考慮したSNOWPACKにおいてほぼ同様のプロセスで水が浸透していくことが確認された。一方で、全体的には3次元モデルの方が再現性が高く、一次元のSNOWPACKでは毛管障壁で水がたまりやすい傾向があることや全体の湿雪化が早いこと、また水みちへの水の集中は1次元のモデルでは再現が難しい事等、SNOWPACKへの改良に向けた検討課題が提起された。この結果は2018年10月にオーストリアで行われたInternational Snow Science Workshopにおいて発表した。 また、3次元の水分移動モデルを用いた湿雪変質実験の再現計算においては、不均一な粒径成長がモデルでよく再現できることが確認された。その際に、湿雪変質による粒径変化と水みちの拡大に大きな関係があることが明らかになった。乾き雪に水が浸透する際に水みちが形成され、水みちの拡大が進むとともに均一な毛管流に変化していくプロセスが湿雪変質を考慮した3次元モデルで再現された本成果に関しては現在論文化を進めており、31年度の早い段階で国際誌に投稿する予定である。 3次元モデルを用いた凍結過程の解析に関しては、3次元モデルに温度パラメータや、熱伝導プロセス、再凍結プロセスを組み込み、氷点下の積雪への水の浸透による温度分布の変化や水みちの凍結量を計算可能にした。また、氷点下の条件で行った実験データを研究協力者から取得し、モデルと実験の比較が可能な環境を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SNOWPACKと3次元水分移動モデルの融合に向け、双方のモデルの比較が大きく進んだ。過去の実験結果で得た実データとの比較で3次元モデルの方が再現性が高いことを確認し、SNOWPACKに必要な改良箇所が明らかになった。特に、湿雪変質による粒径成長が水みちの拡大に大きな影響を及ぼし、乾き雪が卓越する状態から濡れ雪が卓越する状態への遷移が再現できたことは申請時当初では予想していなかった成果である。現在のSNOWPACKでは、最初に水みちが形成し、毛管障壁に水がたまると毛管流によって浸透が開始され雪全体が濡れ雪となるプロセスで計算されているため、水みちを考慮していても全層の湿雪化が早い傾向が残っていたが、今回の成果で今後SNOWPACKの改良につながる情報を得ることができた。 また、本研究の計画で3次元の水分移動モデルに温度過程や凍結過程を組み込み、検証、改良を加えることがあったが、30年度には、3次元水分移動モデルへ温度パラメータの導入と再凍結過程の組み込みを行い、熱伝導による温度分布の変化や再凍結に伴う潜熱開放や固体密度の増加を計算できるように改良を加えた。これにより、氷点下の乾き雪中に水みちが浸透した際に水みちの一部が凍結するとともに、水みち周辺の温度が高くなる過程が計算されるようになった。今後この計算を実データと比較して検証を進めていくため、過去に行われた氷点下における融雪実験のデータを入手した。また、新たな実験として、積雪への水の浸透を模し、冷却した砂カラムへの水の浸潤実験を行い、地表に添加する水の速度や温度と、浸潤前線や0℃線の進行速度、土中の氷量分布との関係を整理した。そして、砂カラムの温度分布に及ぼす選択流(水みちの形成)の重要性や、浸潤が断続的に生じる場合の間隔と土中での浸潤水の凍結量との関係を示した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究として、まず平成30年度に組み込んだ温度、再凍結過程を含んだ3次元モデルの検証を行う。検証のデータとして、氷点下環境における融雪実験や冷却した砂カラムへの浸潤実験のデータを用いて、それらと同じ条件で再現計算を行う。温度や粒径分布を測定しているので、それらを検証データに用いる。また、水みちの形成による温度分布変化の直接測定を行うため、サーモグラフィを用いて水みち形成の温度変化を測定する実験を新たに行い、モデルで再現計算を行う。その後、これらの再現計算を水みちを考慮したSNOWPACKでも行い、0度条件下の実験の時と同様に双方のモデルの比較を行ってSNOWPACKにおける水みち形成時の温度変化に関する計算手法を検討する。 続いて、上記の結果やこれまでの比較結果に基づいて、SNOWPACKの改良を進めていく。3次元水分移動モデルで得た計算結果や実験で得た実データを参考に、1次元でそれらを近似して計算する手法やパラメータの最適化方法を検討する。安定した計算が可能であれば開発元であるスイス連邦雪・雪崩研究所の協力を得ながらSNOWPACKに組み込み、SNOWPACKにおける水分移動過程を改良する。これにより、SNOWPACKにおける水みち形成の遅れや湿雪化が早すぎる傾向を解消するための1次元近似手法が改良される。 上記の改良を加えた上で、SNOWPACKを用いて国内外の積雪断面データや流出量と比較し、改良されたSNOWPACKの検証を行う。水分浸透の不均一性が測定可能なマルチライシメータが設置された長岡や、湿雪が再凍結しやすい寒冷な積雪地域である北海道やスイス等のデータで検証を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は海外の研究者と連携して進めていくため、打ち合わせのための海外旅費の割合を多くとっている。30年度は旅費が当初予定より少なかったこと等で予算に余りが出た。一方、31年度は全体の予算が少なめなうえ、研究協力者の一人が来年度にアメリカからイタリアに移籍するため、来年度の旅費が当初予定を超える可能性が高い。旅費の事情で十分な打ち合わせ期間がとれないことを防ぐため、30年度分の残りを繰越した。繰越金は今年度予算と合算の上で、11月頃の海外出張旅費として使用予定である。
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