研究実績の概要 |
塩水トレーサの流下状況を地盤比抵抗の変化として検出する比抵抗モニタリングにより地すべりの安定性を左右する地下水の流動部の把握手法を確立するため,高速電気探査システムにより従来探査システムの課題であった探査時間分解能の向上を図った.山形県鶴岡市七五三掛地すべりのDブロック冠頭部を試験地として,初年度に既往調査による推定地下水流動部に新たな調査孔を設け,その周辺に複数の2次元比抵抗モニタリング測線を配置し,2,3年度に2極法電極配置による比抵抗モニタリングを実施した.2年度の探査では高速探査システムの受信安定性の問題が明らかになったため,3年度に再実験では約3時間の予備動作後にトレーサ投入前後の本測定を行った.等高線に平行に配置した4測線(電極間隔4m,30電極)について,注入前190分から注入後180分にかけて900データを10分間隔取得する時系列探査を行い,逆解析結果からトレーサ注入に伴う比抵抗低下部を検出した.この結果は高流動性水みちの把握手法の確立の端緒となる.一方,検出された比抵抗低下部はトレーサ流下に伴い想定される連続的な時系列変化を示さず,その要因として再実験前の2019年6月の山形県沖地震以降に調査孔で確認された地下水位低下が上げられる.トレーサ流動部の深さが想定よりも大きくなり,2極法の探査感度不足が生じたと考えられ,受信電位の安定性の向上が課題となった.また,調査孔の水位には明瞭な降雨応答がなく,地下水の深度方向の水温,電気伝導度変化が小さいことから,試験地では地すべりブロック上部の涵養域における鉛直浸透の卓越が推定された.
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