研究課題
作用スペクトルの異なる自閉症誘発化学物質、および誘発が疑われる化学物質である、バルプロ酸(抗てんかん薬、HDAC阻害剤)、クロルピリホス(有機リン剤)、リポポリサッカライド(細菌毒)を投与したモデル動物を作成し、投与時期依存性、投与量依存性の検討を行った。小脳の構造変化は胎生15日以前の投与で著しく、また胎生13日以前の投与では出産に至らないことも多く、小脳の変化を指標とするならば胎生15日の投与がふさわしいことを確認した。これらのモデル動物では、作用スペクトルが異なるにもかかわらず、プルキンエ細胞の過剰発達、細胞死の抑制、顆粒細胞の遊走障害が確認され、化学物質の代謝と作用機序とは別に、神経発達異常を引き起こすメカニズムがあることを示唆した。代表的な自閉症モデルであるバルプロ酸投与動物について、発達器小脳のBDNF量、Reelin発現量、グルタミン酸の反応の変化、さらに生熟後の行動と神経回路の変化を比較したところ、Reelinの過剰発現とグルタミン酸の反応伝搬の縮小が見られた。一方、細胞レベルでの変化から予想されたBDNFの変化は現在のところ見られていない。行動は、自閉症よりは過剰な反応とフリーズを示すADHD型の行動を強く示した。行動の変化は生後40日前後で著しく、60日を過ぎるとコントロール動物との差は見られなくなった。神経回路は顆粒細胞層に高い粘弾性を示し、分子的な実態は不明ながら、顆粒細胞層のネットワークに変化があることを示唆した。貧栄養ストレスは、妊娠動物に予想以上の影響をもたらし、10トライアル中1胎のみしか出産に至らなかった。食事量は通常の50%から80%まで上昇し、個体の皮下脂肪量の差が無視できないレベルとなった。妊娠期ストレス誘発モデルは、食事制限ではなく他の化学的ストレスに置換して実施する必要がある。
2: おおむね順調に進展している
化学物質を用いた自閉症発達モデルの検討については、概ね予定通りの進行である。電気泳動、ELISA、免疫組織化学など有効な研究方法を探りながら、発達期神経障害の分子実態に向かっている。当初予定していなかった行動レベルの変化を観察することで、神経変化の意味づけが可能になったことは大きな進歩となった。一方、食事制限ストレスモデルについては、実験方法を再検討しながら進めることとなる。より科学的な量的評価が可能な「ストレス」の付加と、ヒトデータと比較可能な資料調整法を検討している。
神経障害誘発の候補分子をBDNFからサイトカイン、特に自閉症との関連が強く示唆されるIL-6、IFN-γに広げ、化学物質の代謝と作用機序をこえた、神経発達異常を引き起こす分子メカニズムを追跡する。さらに、ヒト妊娠期ストレスによる発達障害とリンクできる動物の妊娠期ストレス誘発モデルを確立し、ヒトデータとの比較を行う。ヒトで採取しやすい腸内細菌叢の変化、末梢の炎症性の変化を指標に、ヒトに還元できる動物データを採取する。自閉症治療可能性が示唆される薬物を用いて、小脳の神経変化を観察する。化学物質誘発性の神経発達異常とそこからの回復の各過程で、小脳で現れるエピジェネティックな変化を観察する。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 2件、 査読あり 7件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 2件)
NeuroToxicology
巻: 65 ページ: 1-8
doi.org/10.1016/j.neuro.2018.01.001
J. Neuroendocrinology
巻: 30(4) ページ: -
DOI: 10.1111/jne. 12581
Neuroscience Research
巻: 印刷中 ページ: 30544-8
doi: 10.1016/j.neures.2018.03.001.
Infants Mental Health Journal
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
Japanese Journal of Applied Physics
巻: 56 ページ: -
doi.org/10.7567/jjap.56.07jf15
DOI10.7567/JJAP.56.07JF11
DOI10.7567/JJAP.56.07JF18