研究課題/領域番号 |
17K01354
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
吉田 祥子 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (40222393)
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研究分担者 |
穂積 直裕 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30314090)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 発達神経障害 / 自閉症 / 小脳 / 動物モデル / バルプロ酸 / グリホサート / ミクログリア / サイトカイン |
研究実績の概要 |
平成29年度結果に基づいて、自閉症誘発が疑われる化学物質、および新規にヒト自閉症との相関が報告されるようになった環境物質グリホサート、発達毒性の基準物質サリドマイドを用いて研究を進めた。小脳の変化は、(1)小脳虫部のV-VI葉間の褶曲の増加、(2)プルキンエ細胞の増減、にあわせて、(3)ミクログリアの分布、による評価を行った。 リポポリサッカライド(LPS)の投与は、褶曲の増加と同時にプルキンエ細胞死を誘発し、ミクログリアの増加をもたらした。これは、バルプロ酸(VPA)の投与が褶曲を増加させつつプルキンエ細胞は過度に生存し、ミクログリアが不活性であることと対照的であった。VPAの現象は、同様のHDAC阻害剤であるトリコスタチンA(TSA)でも観察され、作用機序がHDAC阻害であることを示唆した。グリホサート投与ではプルキンエ細胞の減少とミクログリア活性化が、サリドマイド投与ではプルキンエ細胞の過剰生存とミクログリアの不活性化が見られた。 ミクログリアの観察から炎症との関係が示唆されたため、(4)投与動物の生後2日の小脳におけるサイトカインmRNA量をRT-PCRを用いて測定した。サリドマイド投与ではよく知られているTNF-αの低下、およびIL-1、iNOSの低下がみられた。VPA投与ではこれらサイトカインの全体的な低下、LPS投与では全体的な上昇が観察され、胎生期の化学物質投与による脳の炎症反応が神経回路障害につながることを示唆した。これらに対し、グリホサート投与動物は、生後2日ではサイトカインの変化が顕著ではなかった。しかし生後14日にはミクログリアの活性化とプルキンエ細胞死が観察され、生後のどこかの時点で細胞死が活性化する、「遅発性神経死」であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
BDNFの関与が明瞭でない一方、生後の小脳で炎症性サイトカインが大きく変化してミクログリアを活性化していることが明らかになった。炎症性サイトカインが増加する群(LPS)、減少する群(VPA、サリドマイド)、生後すぐには変化しない群(グリホサート)にはミクログリアの活性、プルキンエ細胞の生存、動物行動に変化があり、化学物質が神経回路障害をもたらす作用機序に大きな示唆を与える。一方、小脳の褶曲の変化は炎症性サイトカインの反応とは独立に観察されており、アストロサイトに誘導されるメカニズムがあることが考えられる。 ここまでの研究によって、動物個体および免疫組織科学的な手法に加え、ELISAとRT-PCRによる分子生物学的手法の導入によって、多様な化学物質の効果を多面的に評価する方法の確立につなげることができた。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度では、培養小脳細胞を用いて、胎生期の化学物質やストレスの影響がどのような変化をもたらしているのかを観察し、神経回路障害をもたらすメカニズムを明らかにする。当初予想したDNAメチル化、ヒストンアセチル化パターンに加え、炎症性サイトカインを誘導するメカニズムの存在が示唆されている。これらの生化学的変化は、すでにヒトで報告されているものもあり、比較検討して進める。 また、ヒト自閉症に対して現在提案されている薬物治療法の効果を、細胞学的に確認する。
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