研究課題
本年度は、電子スピン共鳴酸素イメージング(ESRI)、および動的核偏極-MR代謝イメージング(DNP-MRMI)によって得られた、扁平上皮がん(SCCVII)や肺がん(A549)、膵臓がん(Hs766t, MIAPaCa-2, SU8686)、前立腺がん(DU145, PC3)のモデルマウス担癌の画像データをもとに、作用メカニズムの異なる各種治療法の選択と治療プロトコールの検討を実施した。また、実際に治療を施すことでその有用性を検証した。ESRIにおいて、酸素分圧が高いと評価された担癌(Median pO2 >10 mmHg)にはエックス線照射治療や放射線増感剤との併用治療が著効し、酸素分圧の低い担癌(Median pO2 <10 mHg)には低酸素標的薬が効果的であることが示唆された。同一臓器由来の異なるがん細胞株から作成した担癌でさえも、その細胞株の性質の違いによってpO2レベルが異なり、有効な治療法もこれに依存して異なっていた。また、DNP-MRMIにおいて、[1-13C]ピルビン酸→[1-13C]乳酸の代謝酵素である乳酸脱水素酵素(LDH)活性が高いと判断された前立腺がん由来のマウス担癌では、LDH阻害剤であるFX-11が著効し、モデルマウスへ連日治療を施すことでその生育速度が遅延することを証明した。以上より、スピン共鳴画像解析によるがん治療前診断から効果的な治療法を予測することが可能であり、実際にモデルマウス治療実験において、各がんの生理学的特性に即した治療手段の選択と最適なプロトコールを決定することで治療効果を最大限に引き出すことが可能であることを示した。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究の中心であるESRIおよびHP-MRMIの撮像条件が決定し、さまざまながん種に対する応用性や、治療効果予測、モデルマウスにおいて現れた実際の治療効果との相関性など、それらの有用性が実証されている。とりわけ、天然由来含硫糖脂質の放射線増感作用メカニズムを初めて解明することにも成功し、これらのイメージング技術の創薬研究への有用性を証明するとともに、臨床研究や治験に向けた基盤データの導出にも成功している。
画像解析で得られたデータのさらなる検証を目的として、各モデルマウス担癌に最適な治療効果の詳細解析や摘出した担癌のバイオプシー検査(遺伝子、酵素活性、組織染色など)を実施し、 画像データとの整合性を生化学的に評価する。得られたデータを総合し、スピン共鳴画像解析によるがん治療効果予測とこれに基づく化学放射線療法の有用性を証明し、がん個別化医療への応用可能性をモデル実証する。
実験補助員の増員を予定していたが、国際共同研究の参加人員が増えたため不要となり、謝金相当額の未使用残金が生じた。次年度に予定している学会成果発表の旅費・参加費や、論文投稿に関連する費用に充当する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 5件、 招待講演 5件)
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