再生医療は、これまでの医学では治療困難であった疾患に対して、まったく新しい治療法を提供しうる可能性を秘めている。再生医療用のリソースとしてiPS/ES細胞等の幹細胞に期待が寄せられている。一方で、残存する多能性幹細胞の混入や遺伝子導入による予期せぬ腫瘍化リスク、時間・コストを要するといった問題点の克服が必要とされている。そうした問題点を克服する手法として、ある種の体細胞から他の種類の体細胞を、多能性幹細胞を経ることなく直接誘導する手法(ダイレクトリプログラミング法)が近年注目されおり、これまでにいくつかの細胞種に関して報告されてきた。しかし、それらはいずれも遺伝子導入を伴うもので、移植後の腫瘍化リスクの問題点などが依然のこる。 そこで所属研究室では、そうした遺伝子導入を用いた既存のダイレクトリプログラミング法の問題点も克服する目的で、遺伝子導入を用いずに低分子化合物を用いたケミカルダイレクトリプログラミング法の開発に取り組み、ヒト線維芽細胞を神経様細胞や褐色脂肪細胞へ直接誘導する手法の開発に成功した。 本研究では上記ケミカルダイレクトリプログラミング法を改変・発展させ、社会的要求度、臨床応用への技術的基盤が整っている点に着目し、網膜色素上皮(RPE)細胞を低分子化合物で直接誘導する手法の開発を目指した。 これまでに、ある種の化合物を組み合わせてヒト線維芽細胞を処理することにより、線維芽細胞特異的な遺伝子発現を減少させ、形態的に上皮様細胞へ誘導する低分子化合物の組み合わせを見出した。さらに、効率的に細胞の分化程度を評価するために、RPE特異的遺伝子のプロモーター領域をヒト線維芽細胞に組み込んだレポーター細胞を作製した。レポーター細胞を用いて、各種化合物によるRPE細胞の分化誘導法確立を目指したが、現在までのところRPE特異的遺伝子の発現を誘導する手法は確立できていない。
|