研究課題/領域番号 |
17K01367
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
松平 崇 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (20570998)
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研究分担者 |
酒井 宏水 奈良県立医科大学, 医学部, 教授 (70318830)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 血液代替物 / 高分子 / ヘモグロビン |
研究実績の概要 |
本研究では、輸血用赤血球の代替となり得る人工酸素運搬体として、生体適合性が高い高分子鎖を介して多重連結されたヘモグロビン(Hb)集合体(polymer-multilinked Hb assembly; PML-Hbs)の創製を目的としている。平成29年度は、PML-Hbs合成の過程において、native HbおよびPML-Hbsの化学的性質について、分子設計上重要な知見を得た。 Native Hbが生理的条件下で安定なα2β2 四量体構造を形成しており、2つのαβサブユニットとの結合解離平衡状態にあることは、よく知られた事実である。この四量体構造は、極端なpH環境や低濃度では解離が促進され、酸素運搬機能の低下を招く。この解離平衡を回避する有効な手段が、Hbの分子内架橋(crosslinked Hb, XLHb)である。当該年度では、native HbとXLHbの化学修飾反応を比較することで、PML-Hbsにおけるα2β2構造の結合解離の平衡状態を明らかにした。また、native HbとPML-Hbsを混合すると生理的条件下であってもサブユニット交換反応が進行することを見出し、分子内架橋を行うことにより、交換平衡を定量的に分析する手法を確立した。これらの知見は、国内学会発表(2件)と、国際学会発表(1件)を通じて学外に発信されたほか、現在、学術論文として科学雑誌に投稿中である。 Hbのα2β2構造は生理条件下では容易に解離しないと考えられていた。このような解離平衡を介したαβサブユニット交換反応が進行することは、当該研究のみならず、Hbを用いた人工酸素運搬体の研究全般において、分子設計を行う際に非常に重要な情報である。当該年度の結果はPML-Hbsの分子設計に反映され、合成経路が最適化された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書の研究実施計画では、平成29年度の目標を「PML-Hbs合成方法の探索」と設定した。当該年度では、PML-Hbsのサブユニット交換反応という、分子設計上極めて重要な現象を明らかにし、合成経路を確立した。従って、研究は概ね順調に進行していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
数種類のPML-Hbsの合成を行い、人工酸素運搬体としての物理化学的性質を比較し、最適な構造をスクリーニングする。合成したPML-Hbsのうち、有望なものについて、実験動物への投与を想定した無菌的雰囲気下でのスケールアップ合成を行う。PML-Hbsを実験動物に投与して毒性の有無を調べ、毒性が発現した場合には原因を究明し、分子設計に立ち戻ってPML-Hbsの化学構造を最適化する。
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次年度使用額が生じた理由 |
<次年度使用額が生じた理由> 購入を予定していた、架橋に用いる高分子材料と、分離精製を行うための器具類の購入額が少なく済んだため。 <次年度使用額の使用計画> 平成29年度の知見を分子設計に反映させた構造を持つPML-Hbsの合成原料を購入するために使用する。
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