本研究では、輸血用赤血球の代替となり得る人工酸素運搬体として、生体適合性が高い高分子鎖を介して多重連結されたヘモグロビン(Hb)集合体(polymer-multilinked Hb assembly; PML-Hbs)の創製を目的としている。Hbが生理的条件下で安定なα2β2 四量体構造を形成しており、2つのαβサブユニットに解離した状態との結合解離平衡状態にあることは、よく知られた事実である。このHbの解離平衡を利用し、令和元年度にはHbの2つのβ鎖を高分子量で単分散のPEGで結合することで、Hbを重合単位に持つ超分子会合体(超分子Hbポリマー)を形成させることに成功した。さらに、続いてα2β2 四量体の分子内架橋を行うことで、形成された超分子Hbポリマーを固定化し、規則的な配列を持つPML-Hbsの効率的な合成を実現した。令和2年度は、前年度までの知見を基に、PEGの化学構造を変えて複数種類のPML-Hbsを合成した。その結果、PEGの鎖長とHbモノマー濃度が、形成される超分子Hbポリマーの重合度を決定する重要な要素であることを見出した。この知見は国内学会発表(1件)と、国際学会発表(3件)を通じて発信され、うち1件の国際学会(2019-ISBS-XVII)ではYoung Excellent Abstract Awardsを受賞した。 このように、超分子化学の手法を人工酸素運搬体の合成に応用した例は他に類を見ず、様々な三次元構造を持つPML-Hbsを合成する方法を拓いたといえる。本研究の成果は2報の学術論文として科学雑誌に掲載され、うち1報は雑誌のSupplementary coverに採用された。
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