研究課題/領域番号 |
17K01370
|
研究機関 | 芝浦工業大学 |
研究代表者 |
渡邉 宣夫 芝浦工業大学, システム理工学部, 准教授 (00568644)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 血液損傷 / 赤血球変形能 / 血小板活性 / 流れの可視化 / せん断応力 / 人工臓器 |
研究実績の概要 |
申請者研究室にて開発したせん断暴露装置を用いて、高せん断環境下での赤血球ダメージ過程の例として細胞間の衝突、不自然な変形、断片化をする事を明らかにし、学術論文にまとめる事ができた。加えて申請者研究室の修士学生箱崎が主体となり、共同研究先のオーストラリア・グリフィス大学のメンバと連携し、せん断流れ環境における赤血球の損傷現象の定量化に向けた実験を順調に行い、せん断応力と暴露時間とを変数としたダメージ出現率を定量評価結果を学会発表した(2018年9月ヨーロッパ人工臓器学会発表済および学術雑誌Int Artif Organs へ論文投稿準備中)。加えて、現地のシモンズ博士らとの共同研究の成果として、赤血球のNO産生量とせん断刺激との相関性も実験的に調査する事に成功し、学術論文にまとめる事ができた。また、現行の装置に対しても、モータ制御機構を取り入れる事で、フレキシブルなせん断流れ発生が可能にするよう追加改良した。この改良装置をもって申請者研究室より修士学生の井上と五十嵐が2018年度6月より2019年3月までの期間、プリンス・チャールズ病院のジョンフレーザー教授の医学研究室、ならびにグリフィス大学マイケルシモンズ博士の生理学研究室に留学をし、共同研究を実施した。申請者も2018年8月と12月に1週間程滞在し、共同研究プロジェクトの遂行を共に行った。その結果、血小板凝集挙動と流れのせん断条件との関係性、およびせん断刺激に対する溶血および血小板活性ならびに赤血球変形能の多数のパラメタ同士の同時比較をする事に成功した。この成果を学術雑誌へのオリジナル論文として近々3編投稿できる見込みである(国際血液ポンプ学会(ISMCS2019)へ申請予定)。加えて、ヨーロッパ人工臓器学会およびアメリカ人工臓器学会にて成果発表採択された所である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者の研究室にて可視化実験用のせん断負荷装置と大容量の液体用のせん断発生装置の2台を開発した。それぞれのデバイスを活用し、2018年度の共同研究に利用した。申請者研究室所属の修士学生の井上と五十嵐が2018年度5月末より10ヶ月の研究留学をした。五十嵐が、ゴールドコーストの グリフィス大学工学部ジェフ・タンスレー教授研究室にて、井上がプリンス・チャールズ病院(責任者:ジョンフレーザー教授)にて主に研究に取り組んだ。そこで、グリフィス大学の研究室では、流れの可視化法により2つのせん断装置の妥当性評価を行った。その後、血小板と血漿タンパクのせん断刺激に対する損傷評価実験を実施した。主な検証対象の血漿タンパクはフォン・ビルブランド・ファクタ(vWF)であった。このvWFの可視化実験は、当初の期待通りにはなかなかうまく行かなかった。そこで、代替案として、vWFが深く関わっていると解釈されている血小板凝集過程に着目し、せん断の大きさとせん断暴露時間の長さに対する血小板凝集挙動を可視化する事を試みた結果、その過程を可視化する事に成功した。現在この成果を学術論文にまとめている。加えて、今年の6月にアメリカで開催される国際学会ASAIO2019にて発表予定である。もう一台のせん断発生装置は、本研究室修士学生の五十嵐が中心となり、グリフィス大学の研究室にてクリス博士からの協力も頂きつつ、せん断にさらされたヒト血液の溶血・血小板活性および赤血球変形能評価を同時に行い、データを蓄積する事に成功した。現在これらのデータをまとめている。申請者は、2018年8月と12月に1週間ずつ現地の共同研究に合流し、研究ディスカッションを実施した。また、申請者の研究室でも、観察点を移動可能なように更に改良したせん断負荷装置を構築し、その妥当性を証明できた(2019年6月バイオレオロジー学会発表予定)。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究室の井上と五十嵐がオーストラリアよりそれぞれ留学を終え帰国し、それぞれの共同研究プロジェクト成果を論文に現在まとめている。研究成果発表および社会への情報発信方法として、2019年10月における国際血液ポンプ学会、および学術雑誌Arfitifical Organsへの論文投稿を検討している。また、オーストラリア側の共同研究者であるDr. Chris Hoi Houng Chan博士が、共同研究プロジェクトの一部成果を本年6月に開催のアメリカ人工臓器学会にて成果報告を実施予定である。我々の開発した装置を用いて、せん断応力とさらされる時間とをパラメタとしての血小板細胞の凝集過程を定量化できた事が1つの成果である。これについても、学会発表と同時に、学術論文投稿を検討している。加えて、本研究室修士学生の箱﨑および井上が中心となって取り組んだ結果、画像解析によるせん断に対する赤血球のダメージ検出法を確立する事に成功した。この成果を学術論文投稿すると同時に、学会発表を実施する予定である。この成果発表の場として、国際血液ポンプ学会および人工臓器学会を検討している。申請者の研究室においても、修士学生の池田と共に、せん断負荷装置に対して観察点を移動できるように機構改良した。加えて、2019年3月に倫理委員会において、ヒト血液実験について承認して頂いた。これらの事から、より高精度で且つ長時間せん断にさらされた血液細胞の応答特性を研究する事が可能となった。引き続き、ヒト血液細胞のせん断刺激に対する脆弱性の検討を実施する予定である。また、申請者研究室の博士課程1年生のクリエンサック・マスノック君・および学部4年生の板谷君が今年の秋以降に共同研究に協力し、流れの変化による細胞挙動と損傷について研究予定である。今年度は集大成としてオーストラリア研究チームと協力し学術論文を積極的にまとめたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
3,031円が余っていますが、1万円未満の予算でしたので、次年度に繰り越して有効利用させて頂いた方がいいと判断いたしました。
|