研究課題/領域番号 |
17K01375
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
片岡 則之 日本大学, 工学部, 教授 (20250681)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ガン転移 / 血管内皮細胞 / アクチンフィラメント |
研究実績の概要 |
本研究では、ガンの血管を介した転移に焦点を当て、ガン細胞の血管内皮細胞に接着・浸潤する状態を3次元かつ実時間で観察するための3次元共培養モデルを構築し、ガンの血管での転移メカニズムを解明することを目的とする。初年度である今年度は、研究の基盤となる3次元複数細胞の共培養系の構築を行った。共焦点レーザー顕微鏡での観察を見据え、ガラスベースディッシュ上にガン細胞の誘引物質S100 A8/A9を恒常的に産生する培養細胞株HEK293 A8/A9を播種、培養し、カバーガラスに充分に接着後、HEK293 A8/A9上にコラーゲンゲルの薄膜層を作成した。厚みは20~30μmになるよう調整した。次に、ゲル上にヒト臍帯静脈由来内皮細胞(HUVEC)を播種し、ゲル上にコンフルエント状態になるまで培養した。ゲル上のHUVECは倒立位相差顕微鏡で適宜観察した。その後、10~12時間、HUVECを炎症性サイトカインIL-1βで刺激を負荷した。IL-1βで活性化したHUVEC上にヒトメラノーマ細胞株 MEWO を添加し、倒立位相差顕微鏡でMEWOの挙動を観察・記録した。実験モデルには、それぞれ対照群を設定した。よって、1) コラーゲンゲル下にHEK293 A8/A9は設置せず、ゲル上にHUVECのみを培養した群、2) HEK293 A8/A9上にコラーゲンゲルを作成し、その上にHUVECを培養したが、IL-1βによる刺激を負荷しなかった群、である。上記3群でMEWOの挙動観察したところ、HEK293 A8/A9があり、IL-1βによる刺激を負荷した軍でのみ、MEWOの内皮下への浸潤が観察された。 一方、細胞挙動の詳細を把握するため、MEWOを中心とした株化細胞内のアクチンフィラメントの可視化を試みた。アクチン結合ペプチドLifeactとGFPを恒常的に発現する細胞株の樹立に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題の本年度の進捗状況は、概ね計画通りに進展している。初年度、計画通り、3次元共培養系の確立に成功し、ヒトメラノーマ細胞株であるMEWOの内皮細胞下への浸潤が観察できた。ガン細胞の内皮細胞への接着・浸潤に及ぼすS100 A8/A9タンパクの影響、炎症性サイトカインIL-1βの影響等も調べることが出来た。また、細胞浸潤のメカニズムの解明には、生細胞内のアクチンフォラメントの観察が不可欠であるが、MEWOで恒常的にアクチン結合ペプチドLifeactとGFPを恒常的に発現する細胞株の樹立に成功した。生細胞内のLifeact-GFPの発現により、ガン細胞には非常に太いアクチンフィラメントがc王軸方向に走行し、また、高速蛍光撮影により、細胞内でアクチンフィラメントが微小に揺らいでいることも分かった。今後、生細胞内のアクチン観察については、遊走中、あるいは浸潤中の観察が重要になる。さらに、流れ負荷装置の構築も行った。細胞に対して一定流量、一定せん断応力負荷をする単純な平行平板型と、途中で流路が急拡大して流路中に渦を形成する急拡大型を作成した。現在のところ、3次元共培養モデルへの流れ負荷は実施していない。3次元共培養モデルへの流れ負荷時に生ずる問題としては、負荷直後にゲルがディッシュから剥がれてしまうことでが想定される。これは、次年度以降の試み、また課題である。
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今後の研究の推進方策 |
前年度構築した3次元共培養モデルを用いて、内皮細胞への接着・浸潤状態にあるMEWOのアクチン構造の観察を実施する。また、内皮細胞間接着タンパクである、VE-Cadherinの実時間同時観察も試みる。一方、平行平板型フローチャンバーを用いて3次元共培養モデルへの流れ負荷、並びに流れ負荷状態でのガン細胞の血管浸潤の観察も試みる。フローチャンバーは、細胞に対して一定流量、一定せん断応力負荷をする単純な平行平板型と、途中で流路が急拡大して流路中に渦を形成する急拡大型を準備している。MEWOへは、流れ負荷と内皮細胞への添加の前に、引っ張り刺激を加え、力学刺激によってガン転移状態がどのように影響を受けるか明らかとする。 3次元共培養モデルへの流れ負荷は、負荷直後にゲルがディッシュから剥がれてしまうことが想定される。そのため、負荷するせん断応力、流量のコントロールとともに、ディッシュ底面のカバーガラスの表面加工、コラーゲンゲルの強度を増加させる等の試みも行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費の使用において、価格が当初見積もりと比較し、若干、安価になったものがあったため。
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