研究課題/領域番号 |
17K01378
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研究機関 | 聖マリアンナ医科大学 |
研究代表者 |
藤原 成芳 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 講師 (50365425)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 認知症 / 神経移植 / ヒトiPS細胞 |
研究実績の概要 |
これまで私は、ヒトiPS(hiPS)細胞からコリン神経を分化誘導し、分化誘導した神経幹/前駆細胞を認知症モデルマウス(PDAPPマウス)に移植する系を確立し、移植を行ってきた。また認知機能改善評価のため、マウスを使ったモリス水迷路(MWM)についてもまた実験系を確立してきた。その結果、確立した実験系において、低下した認知機能が神経移植により改善される可能性が示された。当該年度はこの実験系に沿ってさらに移植例数を増やし、研究を進めてきた。現在、解析結果に反映していないデータも含めると実験数は35例以上となっている。認知機能の改善したマウス脳内において、コリン作動性神経及びGABA神経の再生を認めた。またそれぞれの神経の受容体であるalpha7ニコチン受容体及びGABA受容体の発現も確認しており、移植によるコリン神経系及びGABA神経系の再生が認知機能改善に寄与していることが示唆されている。 コリン神経は海馬よりも大脳皮質での発現が見られ、また予想に反して移植部位である海馬とは遠位の内側中核、あるいはブローカの対角帯垂直部といったコリン神経の起始核群のある部位に移植細胞由来の神経細胞が認められた。GABA神経は海馬内、特に顆粒細胞群や錐体細胞群の中に再生を認めた。 現在、実際に再生した神経がどのように機能しているか、どのように軸索を伸張させているのか、ホスト神経との軸索形成はあるのか等の解明に向けて、来年度に向けた神経トレーサーを用いた検討を行っている。どの部位に、どのように神経トレーサーを挿入し、どの程度固定するのか(固定日数)等の最適化を目的とした実験の結果、内側中核/マイネルト核近傍に挿入した神経トレーサーからはコリン神経の投射を反映したような神経軸索の伸張が見られ、海馬内移植部位近傍への挿入は海馬内の神経流れをトレースしておりGABA神経について観察できると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度当初の予定通り、神経トレーサーを用いた(予備)実験を行い、どの部位に、どのように神経トレーサーを挿入し、どの程度固定するのか(固定日数)等の最適化を目的とした実験を行ってきた。その結果内側中核/マイネルト核近傍に挿入した神経トレーサーからはコリン神経の投射を反映したような神経軸索の伸張が見られ、海馬内移植部位近傍へ挿入した神経トレーサーからは海馬内の神経流れをトレースすることができており、これによりGABA神経について観察できると考えている。平成30年度以降の「移植神経細胞が移植神経細胞間でシナプスを形成し全く新しい神経回路を形成している可能性と、移植神経細胞がレシピエントの神経細胞とシナプスを形成してレシピエントの神経回路を再生している可能性について検討する」に向けて順調に研究が進んでいると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の神経トレーサーを用いた研究により、神経トレーサー使用のプロトコールがほぼ確立できたことから、平成30年度はこのプロトコールに従い移植神経と神経軸索の投射について検討を行っていく。移植実験については今後も定期的に行い、さらなる移植例の増加と脳サンプルの作成を目指していく。 具体的には、移植神経細胞が移植神経細胞間でシナプスを形成し全く新しい神経回路を形成している可能性と、移植神経細胞がレシピエントの神経細胞とシナプスを形成してレシピエントの神経回路を再生している可能性について検討する。神経回路再生の観点から認知機能回復マウス脳内における神経再生の状態を明らかにする。抗マウス抗体と抗ヒト特異的抗体(抗ニューロフィラメント抗体他)を使い分け、移植神経とレシピエントの神経を観察し、シナプス結合部位においては神経終末のシナプシンあるいはシナプトフィジンに対する抗体と併せて免疫染色を行うことで、レシピエントと移植神経の神経回路形成について解明する。ここに神経tracerも併用し、再生神経の軸索伸張について詳細に検討を行う。 移植方法の改善やソーティングによる移植細胞の純化等については引き続き検討課題としておく。
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次年度使用額が生じた理由 |
学会は神奈川県横浜市のパシフィコ横浜で行われたが、開催日程が3月で有り、年度末の会計に間に合わなかったため、平成30年度の予算にて精算することとした。
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