研究課題
本研究では,従来の視覚研究が,主に認識機能に関わる高次画像処理機能に関するものであったのに対し,中枢神経系ではない,循環器や消化器などの生理機能を担っている臓器に対する生理的,あるいは疾患に対する病態解明および機能のモデル化と解析を目的としている.昨年度までに,視細胞の光受容機能に直接かかわる光電位変換機構のモデルについては,極めて詳細度と精度の高いモデルを完成させているが,視物質の再生に関わるカスケードについては,文献などによる実測データが乏しいためパラメータの調整が難しかった.本年度は,これらのパラメータについて,どの程度のパラメータ変動範囲で,生理的に適当なマクロデータが再現できるかという点について,感度分析法を応用した手法で解析を行った.その結果,従来想定されていた視物質とトランスデューシンとの親和性について,杆体と錐体でどちらが親和性が高いとしても,視細胞としての機能は再現可能であることが確認でき,このことから,モデルを利用して従来からの作業仮説の検証を行うということは難しいことが確認された.一方,網膜電図の再現という意味では,視細胞からの信号を直接受容する双極細胞について,電気生理的に極めて詳細なモデルを構築することができた.このモデルでは,哺乳類の双極細胞で確認されているイオンチャネル,交換機転を,ほぼ網羅した細胞モデルを構築しており,樹状突起,細胞体,軸索終末のそれぞれのコンパートメントに,報告されているイオン電流を配置することができた.また,これらのイオン電流によって,細胞内のイオン恒常性が維持できるバランスを取ることができた.
3: やや遅れている
現在までに,モデルの構築と解析という点においては,研究は概ね順調に進んでおり,網膜に存在し,網膜電図に直接関係する細胞である視細胞と双極細胞については,かなり正確で詳細なモデルを構築することができ,さらに,これらの細胞を組み合わせた場合に,網膜電図波形を現実的な時間で計算可能なモデルも構築することができた.これらのモデルは,エネルギーを使ったイオン移動なども計算可能であることから,生理的な光環境下における細胞のATP消費なども評価することが可能であり,エネルギーバランスの異常に関わる疾患のモデル化や解析にも応用可能であると期待できる.一方,これらのモデルについて,学術雑誌での出版という点では,当該分野において,医療的な応用が可能な生理モデルの研究が極めて限られることから,有用性の主張が難しく,この点については,当初の計画に対し,進捗が遅れている状況である.
平成31年度については,まず,現在までにやや遅れている構築モデルの出版を優先する.次に,構築した視細胞光電位変換機構モデル,および双極細胞のモデルを用いて,網膜電図の再現が可能なように,特に細胞内,および細胞外のコンダクタンスの調整を行う.そのうえで,眼疾患やその他の疾患による網膜電図の変化を再現可能なように,疾患モデルの検討を進める.
研究の実施状況で説明した通り,現在までに計画していた研究成果の出版に関して,想定より遅れており,出版に要する予算が支出されていない状況であるため,次年度使用額が生じる状況となっている.
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