研究実績の概要 |
本研究の基盤となる網膜視細胞において光信号を細胞の膜電位変化に変換する光電位変換機構について,杆体と錐体における光応答の時間差が何に起因しているかを解析するため,構築した詳細な数理モデルに関して,モデルに含まれる多数のパラメータの妥当性を解析した.具体的には,全てのパラメータについて,そのパラメータ値がどの程度妥当であるかを,統計的にパラメータにランダムな値を乗ずることで解析を行い,唯一性の検証を行った.その結果,ほぼ,モデルで使用されていたパラメータ値から×0.3~×5程度の範囲でのみ,適切な結果が得られることを確認した. 次に,視細胞におけるエネルギー消費の評価を行うため,まず,細胞内のイオン濃度恒常性が再現される細胞モデルを構築した.従来,神経細胞のモデルでは,電位変化を計算する電流のみを用いたモデル化が一般的であったが,エネルギー消費を計算するためには,Na+,K+,Ca2+,Cl-のイオンについて,関連するイオンチャネル,トランスポーターを含めた細胞モデルが必要である.構築したモデルでは,これらのイオンについて,暗時および光刺激応答時に,イオン濃度の恒常性が保たれるモデルとなり,このときに,Na+とK+を交換するNaK交換体で消費されるATPを計算することが可能となった. この際に,Na+,Ca2+ を交換するNCX,Na+,Ca2+,K+を交換するNCKXについて,熱力学的な制約を満たす詳細な数理モデルは提案されていなかったため,本研究で,これらのモデルを構築した. このモデルで計算されるATP消費量に加えて,光電位変換機構モデルでも,入力される光信号に対して,消費されるATP量を評価するモデルも導入することで,視細胞において消費されるエネルギーについては,ある程度の精度で見積もることができるモデルを構築することができた.
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