研究実績の概要 |
がん治療における化学療法(抗がん剤)は、重篤な副作用が問題となっている。近年の分子標的治療薬に関しても例外ではない。そこで、より安全で治療効果の 高い治療薬の開発が急務である。トレハロースは、脱水や凍結などのストレス下で細胞を安定化させ、細胞内シグナル伝達、細胞の成長・分化に関わっているこ とが示されている。申請者は、最近、トレハロースミセルおよびリン脂質から構成されるトレハロースリポソームを新たに創製し、大腸がん、胃がん、肝臓がん に対する抑制効果およびアポトーシス誘導を明らかにした。さらに、がん細胞皮下移植担がんマウスに対する腫瘍縮小効果、摘出した腫瘍の組織切片観察による アポトーシス誘導を見出している。 本年度は、肺がんや乳がんに対する制がんメカニズムを検討した。トレハロースナノ粒子(トレハロースリポソーム,DMTre) は、細網内皮系を回避できる直径100nm以下で約一ヶ月以上安定であった。膜粒子表面に形成される構造化された水は固定水層と呼ばれ、細胞や膜の表面に存在する。DMTre の固定水層を求めたところ、トレハロース含有率の増大に伴い、固定水層は増大した。DMTreは正常細胞膜とがん細胞膜を識別し、がん細胞にのみ融合・蓄積後、アポトーシスを誘導した。DMTreのアポトーシス誘導経路については、カスペース-6、8、および9を活性化し、ミトコンドリア膜電位の低下および、ミトコンドリアからのシトクロムcの細胞質への放出も明らかになった。また、ストレスシグナルのJNKの活性化がみられた。担がんマウスにDMTreを静脈投与したところ腫瘍の縮小およびアポトーシスが検出され、治療効果が得られた。安全性試験からはDMTreの高い安全性が明らかとなった。安全で有効ながん治療薬の開発が期待される。(Medical Science Digest, 45, 512(2019))。
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