研究課題/領域番号 |
17K01385
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研究機関 | 科学警察研究所 |
研究代表者 |
秋葉 教充 科学警察研究所, 附属鑑定所, 鑑定官 (00370883)
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研究分担者 |
宗田 孝之 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (90171371)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 医用画像 / バイオイメージング / 非破壊検出 / レーザ / 蛍光 / 指紋 / 法科学 |
研究実績の概要 |
指紋を光及び温度条件を変化させ約一か月保存し、指紋の蛍光スペクトル測定を行った。283nm励起では350nm付近の蛍光が観られ時間経過と共に減少したが、365nm励起では450nm付近の蛍光が時間経過と共に増大した。両者の蛍光強度比の変化と保管環境との関係を調べた。暗条件よりも明条件、室温よりも高温の比率変化が大きくなり、劣化との関係性が分かり、指紋の印象時期推定のための一助となった。 経時変化した指紋の可視化では、時間が経つほど指紋が鮮明になっていった。これを利用することで、古い指紋の可視化や初めは分離できなかった重畳指紋が時間とともに分離できる可能性があることを示した。 可視HSIの検出器を、冷却CMOSから高感度冷却CCDに換装し、微弱光を検出できるように改良した。感度の向上に加えて計測時間を短縮することができた。 可視HSIと365nm UV LEDを用いて2重指紋の分離を行った。これまでの結果と同様に減算及び除算でも分離することができたが、主成分分析を行ったところ、より鮮明に分離することができた。また、3重指紋について、主成分分析の一形態でありかつスペクトルの概念を保存する方法であるFARMSを適用して指紋の分離を試みた。3指紋として分離はできなかったが、少なくとも2つまでは、鑑識レベルで指紋データベースと照合可能であることが分かった。 アミノ酸水溶液の経時変化による褐変現象について、三量体までの対象分子のエネルギー最安定構造を同定し、第一原理計算を用い吸収端を計算した。同種アミノ酸の脱水重縮合による単、二、三量体をモデルとした。残基に環状構造かつ=NHを持つものに対しては、それらとC-末端が脱水重縮合し長鎖化して多量体を形成すると仮定して計算した。その結果、吸収端が長波長化し、褐変現象の定性的機序として残基環状構造を介した多量体での電子の非局在化が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定通り、様々な環境下での指紋の経時変化の測定及び可視化を行い、また重畳指紋の分離を行った。以下に具体的な結果を示す。 環境による指紋スペクトルの変化を測定した。365nm励起の場合、時間が経つほど指紋像が鮮明になっていき、古い指紋も可視化できる場合があることを示した。 統計的手法を用いて、HSIで撮影された重畳指紋をより鮮明に分離することができた。さらにFARMSを用いることで、3重指紋が少なくとも2つまで分離することができた。また、HSIのカメラを換装し、高感度化及び高速化を図った。 アミノ酸の褐変現象について、第一原理計算を用いて計算し、吸収端が長波長化することと、褐変現象が残基環状構造を介した多量体での電子の非局在化によりもたらされることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き、様々な環境下での指紋の経時変化の測定及び指紋成分分子の経時変化の計算機シミュレーションを行う。それに加えて以下の実験を行う。 1 古い指紋の可視化 科警研及び警察庁には過去に実験を行った試料が多数保管されており、少なくとも5~10年以上前のものも存在している。それらの試料をHSIを用いて顕在化を試みる。HSIは可視域における各波長ごとの画像を一度に取得できるため、古い指紋の成分のスペクトル情報を元に統計的な分析法を利用し顕在化を行う。 2 HSIによる指紋の分離 重なった指紋の蛍光スペクトルをHSIで計測し、多変量解析により単独の指紋を抽出する。個人由来の成分の違いを利用し異個体(別人)による違いを調べる。経時変化による成分の変性を利用し、不明指紋とフレッシュな指紋の違いを調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度の途中に、3ヵ月間海外留学することになり、その準備期間も含めた期間は予算を執行することができなかった。次年度は主に実験消耗品の購入にあてる予定である。
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