これまでの研究で、印象直後の指紋を280nmで励起すると340nmを中心とした蛍光が現れる一方で、経時変化した指紋では340nmを中心とした蛍光が減少するとともに440nmを中心とした蛍光が現れ、次第にその蛍光強度が強くなっていくことを示した。本年度は、指紋成分の酸化反応から算出した劣化関数を用いて、指紋の経過時間が推定可能かの検討を行った。 石英スライドガラスに印象した指紋を用い、光の条件(太陽光下、蛍光灯下、暗条件)を3通り、湿度の条件(中湿度、低湿度)を2通りとし最大2年間保存し、その間に280nmで励起した際の蛍光スペクトルを測定した。劣化関数による劣化係数を推定するためには、340nm蛍光と440nm蛍光の比を求める必要があるが、重回帰分析によりスペクトル分解し計算する方法と2つの蛍光ピークを積分する方法の2通りの方法を検討した。 その結果、劣化関数に近似した際の誤差がより小さかった積分法で劣化係数を求めたところ、光の影響の比較では、中湿度、低湿度ともに、暗条件、蛍光灯、太陽光の順に劣化関数から求めた劣化係数が大きくなっていった。湿度の比較では、低湿度、中湿度の順に劣化関数から求めた劣化係数が大きくなっていった。以上より、劣化関数が指紋の時間変化を知る手がかりとなることが示唆された。 2015年までに作成していた、重なった2つの指紋モデルから計測したハイパースペクトルデータに対して独立成分分析(ICA)を適用し、独立成分画像とスペクトルを推定した。それら画像の法科学的な価値を画質と指紋照合の可否の観点から検討した結果、高い品質の画像は12特徴点に基づく指紋照合に十分耐えうることが分かった。 三次元励起蛍光スペクトルのデータを用いて、脱落皮膚片試料の脱落時からの時間と試料の経時劣化に伴うスペクトル変化の2変数に対する校正曲線作成方法についての検討を行った。
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