研究課題/領域番号 |
17K01391
|
研究機関 | 北九州市立大学 |
研究代表者 |
趙 昌熙 北九州市立大学, 国際環境工学部, 准教授 (70364148)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 人工股関節 / UHMWPEライナー / インピンジメント / 損傷 / 有限要素法シミュレーション |
研究実績の概要 |
人工股関節の臨床寿命を短縮する主要原因の一つである部品同士のインピンジメント(impingement)発生による超高分子量ポリエチレン(以下UHMWPEと略称)ライナーの摩耗や破損などの損傷を抑制するために、平成29年度中には、まず研究協力機関の研究協力者らによって集積された数十例の摘出人工股関節のUHMWPEライナーに対してインピンジメント発生による損傷の発生率・特徴・タイプなどの調査・観察・分析を行った。次に、インピンジメントの力学的シミュレーションのための解析モデルの作成のために、これらの摘出人工股関節の人工骨頭、UHMWPEライナー、ステムネックに対して寸法や幾何学的形状の測定を行い、データベースを構築した。また、構築したデータベース中の実測値に基づいて、インピンジメント発生時のUHMWPEライナーの力学的挙動解析のための人工股関節の有限要素モデルを作成した。当該年度中には、主にこれらの有限要素モデルと先行研究で構築されたUHMWPEの材料モデルを用いて、インピンジメントの有限要素法シミュレーションの予備解析を行い、数値計算の収束性と解析結果の妥当性をチェックした。さらに、これらの解析結果と摘出症例の比較を行い、人工股関節におけるコンポーネントインピンジメントの発生がUHMWPEライナーの力学的状態や損傷に及ぼす影響について検討を行った。その結果、ステムネックとのインピンジメントによる過大接触応力と過大塑性変形の発生が摘出UHMWPEライナーのリム部で多く観察された激しい破損、割れ、摩耗などの損傷発生の主要原因であることが確認できた。また、UHMWPEライナーリム部のデザインや、人工骨頭とステムネック部の寸法の変更による人工股関節の可動域増大およびインピンジメント損傷低減の可能性が確認できた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の当初の研究計画において、当該年度(平成29年度)中に実施予定であった十分な人工股関節の摘出症例と臨床背景データの集積、摘出人工股関節のUHMWPEライナーに対するインピンジメント発生による損傷の発生率・特徴・タイプなどの調査・観察・分析、摘出人工股関節の人工骨頭、UHMWPEライナー、ステムネックに対する寸法・幾何学的形状の測定およびデータベースの構築、構築したデータベースに基づく力学的挙動解析のための人工股関節の有限要素モデルの作成、インピンジメントの有限要素法シミュレーションの予備解析の実行および解析結果の分析等が当初の予定通りに実施できた。さらに、当該年度中に行った解析や摘出症例の調査・観察の結果や得られた成果を取りまとめ、国内外の関連学会において発表および研究論文として学術雑誌に投稿ができた。
|
今後の研究の推進方策 |
今後本研究課題では、更なる摘出症例の調査や数値解析を行い、人工股関節におけるインピンジメント発生の原因やUHMWPEライナーの損傷に及ぼす影響を明らかにし、インピンジメント損傷抑制のための設計改善策を提示する予定である。当該年度の研究結果は、数値計算の収束率を高めるために形状や運動を単純化した2次元モデルで接触解析を行った段階での結果であり、本研究課題で摘出されたUHMWPEライナーの中で数例の摘出例に限定される。したがって、人工股関節におけるインピンジメントの発生がUHMWPEライナーの力学的状態や損傷に及ぼす影響をより厳密に解析・評価するために、今後、より厳密に人工股関節の形状を再現した3次元モデルの作成およびこれを用いた力学的解析を行う予定である。また、人工骨頭の並進自由度を考慮した解析および検討、UHMWPEライナーリム部の形状パラメーターの影響の検討、人工股関節のhead-neck ratioの影響についても更なる解析的検討を行う予定である。
|