研究課題/領域番号 |
17K01394
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
花尻 達郎 東洋大学, 理工学部, 教授 (30266994)
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研究分担者 |
中島 義賢 東洋大学, 学際・融合科学研究科, 准教授 (40408993)
水木 徹 東洋大学, 学際・融合科学研究科, 准教授 (80408997)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | マイクロ流路 / ゼータ電位 / 電気泳動コールター法(ECM) / ヒト多発性骨髄腫・Bリンパ球様(IM-9) / アポトーシス細胞 |
研究実績の概要 |
本研究グループでは、マイクロ流路で微粒子のゼータ電位を測定する電気泳動法とアパーチャーを用いて粒子の大きさと数を測定するコールター法の二つを組合せたECM(Electrophoretic Coulter Method)を独自に提案しており、本研究では、その実用化の為に必要な要素技術の確立を目的としているが、本年度においては、医療検査等において極めて重要な生体細胞であるヒト多発性骨髄腫・Bリンパ球様(IM-9)に着目し、走査電子顕微鏡(SEM)観察や蛍光顕微鏡観察によりIM-9の生死判定をし、ECMを使用することで単一分析することを目標とした。まず、SEM観察により、IM-9の生細胞の特徴である仮足やアポトーシス細胞の特徴であるアポトーシス小体を確認できた。次に、細胞接着分子の検討を行った。Lリジン(PLL)とフィブロネクチン(FN)の接着の様子の違いについて観察した。ECMに関しては、トリパンブルーの濃度を3種類に分けて、IM-9と混ぜで測定した。トリパンブルーの濃度が濃くなるほど生細胞と死細胞のゼータ電位の差が大きくなり、IM-9を生細胞と死細胞に分ける事が可能となった。本研究グループにおいても、昨年度までの予備実験段階においては、IM-9を浮遊した状態の集団でしか分析できていなかったものが、本年度ではトリパンブルーでの高濃度染色によりそれが初めて可能となった。 ECM実現化の為の新材料に関しては、計画段階では想定していなかった希土類水素化合物に着目し、その基礎物性評価に着手した。また、将来的なデバイス試作を視野に入れて、FETのデバイスシミュレーションにも着手した。更に、将来的なデバイス特性評価(電気的測定)を視野に入れて、材料としては化合物半導体を用いた多層薄膜構造の非破壊評価法について実験的実証を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究グループのECM(電気泳動コールター法)に限らず、医療検査のためのマイクロ流路デバイス全般において、生体細胞、特に赤血球と比較して白血球に関しては扱いや正確な測定が非常に難しいが、今年度においては、医療検査等において極めて重要な生体細胞であるヒト多発性骨髄腫・Bリンパ球様(IM-9)に関して、細胞死(ネクローシス・アポトーシス)や接着・増殖している様子を確認することに成功し、非常に大きな進展があった。特に、トリパンブルー染色の濃度により、生細胞と死細胞のゼータ電位の差が大きくなることを見出し、更にその現象を利用して、高濃度トリパンブルー染色をすることにより、従来、浮遊した状態では集団でしか分析できていなかったIM-9に関して、ECMでゼータ電位と細胞の大きさを測定することで単一分析が初めて可能となったのは、予期しない非常に大きな成果であった。 従来、がんの病態の経過は、診察と画像診断による腫瘍の大きさの評価か、血清腫瘍マーカーと呼ばれる血清中に存在する特定の蛋白質や糖の濃度を測定することで診断されている。しかし、CT検査による画像診断では腫瘍の大きさを測定することは可能だが、その腫瘍が活発に増殖しているのか、もしくは休眠状態にあるのかを知ることは出来ない。また、PET検査では、がんの早期発見は難しく、一部検出できない臓器がある。このような状況の下で、がんの病態の経過観察の実用的な方法が提供できる可能性を、本研究初年度において示すことができたのは予想外である。 また、ECM実現化の為の新材料に関しても、デバイス設計の為のシミュレーションに関しても、初年度から着手し、口頭発表の段階ではあるが成果の一部を報告している。 全体としては、国際学術雑誌2件、国際会議4件、国内学会2件の発表を行い、初年度としては想定以上の研究発表を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度においては、本年度において改善を行った細胞接着の技術を用いて、ヒト多発性骨髄腫・Bリンパ球様(IM-9)電極の上に接着させ、細胞の分裂、細胞死の様子を視覚的、且つ電気信号的に観察し、細胞が活動状態にあるか判断できるようにする。また、光学顕微鏡で細胞観察する際に、透明電極を使い、仮足があるか見ることにより、細胞の生死判定をしやすくする。最終年度までには、マイクロ流路に電極パターンを付け、細胞を接着させることで細胞の電気信号だけで細胞の分裂・増殖を検出できるようにする。ECM実現化の為の新材料に関しても、計画段階では想定していなかった材料にも着目しながら、継続する。また、デバイス設計の為のシミュレーションに関しても、初年度得られた知見を活かしながら、デバイスの設計指針を確立することを目標とする。 これらと並行して、新規形状を有するマイクロ流路の設計および試作にも新たに着手する。本研究室で行っているECMを用いて細胞表面の電気特性を測定する際には、(1)流路両端をマイクロピュペットにより手作業で流量を調整している。そのためこの作業は手間と時間がかかる。(2)細胞の電気泳動速度は非常に小さいために流路内の圧力勾配などに起因した液体の流れに隠れて、電気泳動速度のみを測定することが困難な場合がある。(3)粒子だけではなく、流路の内壁も帯電するために、それによる流れ(これを電気浸透流という。電気浸透流については、本研究グループにおいても、流路のサイズやMPCコーティング濃度等の最適化を行い、かなり抑制することが確認できている。)も除去する必要がある、などの問題点が挙げられる。これらの問題点を解決するため、流路の形状を工夫することで圧力勾配による液体の流れも抑制し、粒子の電気泳動速度を簡便に測定する装置を開発することを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では、ECMを研究室内試作レベルから実用化レベルにまで発展させるために、本研究グループにおいて充分に実績を有する新電子材料を活用することによりその解決を図ることを目的とし、初年度においては主に(1)流路コーティングの分子レベルでの解明、(2)流路コーティングの最適化を行う予定であったが、PDMSマイクロ流路壁面のMPCコーティングに関しては計画より順調に最適化を行うことができたため、生体細胞、特に赤血球と比較して確な測定が非常に難しいが、医療検査等において極めて重要な生体細胞であるヒト多発性骨髄腫・Bリンパ球様(IM-9)に関して、最終年度での評価を計画していたのを前倒しの形で、今年度、評価を行った結果、トリパンブルー染色によりIM-9の浮遊した状態での単一分析が初めて可能となるという予期しない成果が得られたため、当初計画していた、新電子材料の活用により諸問題の解決を図ることに関しては緊急性が低くなった。そこで、初年度に予定していた種々の新電子材料の準備のための予算が計画額ほど必要なくなった次第であるが、新電子材料の活用の検討については次年度以降において本格的に着手する予定であるので、今年度の残予算に関しては、次年度において有効に活用する計画である。
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