研究課題/領域番号 |
17K01402
|
研究機関 | 国立研究開発法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
神戸 裕介 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 研究員 (30747671)
|
研究分担者 |
山岡 哲二 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 部長 (50243126)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | シルク / フィブロイン / ゲル / 剛性 / 生分解性 / 心筋梗塞 / ペプチド修飾 / 線維組織 |
研究実績の概要 |
本研究では,化学組成は同一ながらも強度(剛性)と生分解性(分解期間)を独立して広範囲に制御可能なゲルの創出によって,心筋梗塞ゲル注入療法における最適なゲルの性質の発見と心筋リモデリング抑制メカニズムの解明を目指す. 今年度は,生分解性は同程度ながらも強度が異なるシルクフィブロイン(シルク)ゲルの開発に取り組んだ.昨年度の条件設定に基づき,濃度,オートクレーブ処理回数,超音波照射時間を変化させることで,生分解性が約8週で強度が約50,250 kPaのシルクゲルを得た.しかし,上記の3パラメータの設定のみでは生分解性が約8週で強度が約10 kPaのゲルを得ることができなかった.このため,別の研究助成で取り組んでいた架橋性ペプチドでのシルクゲルの修飾手法を採用し,生分解性が約7週で強度が約10 kPaのゲルを得た.架橋性ペプチドのアミノ酸配列はシルク由来であるため,化学組成や生分解性が同程度(約7~8週)ながらも強度が異なる(10,50,250 kPa)ゲルの開発に成功した. また,強度は同程度(約10 kPa)ながらも生分解性が異なる(1,3週)シルクゲルを用いて,心筋梗塞ゲル注入療法における生分解性の効果の解明にも取り組んだ.生物活性ペプチド修飾によって生分解性を早めたゲルと未修飾ゲルを心筋梗塞モデルラットの心筋内に注入した結果,未修飾ゲル注入群の方が心拡大が有意に抑制された.また,組織学的評価により,ゲル注入後12週後の左室壁における再生コラーゲン線維組織の配向性が両群で異なることが分かった.特に,生分解性の遅い未修飾ゲル注入群ではコラーゲン線維の配向がランダムであったのに対し,生分解性の早いペプチド修飾ゲル注入群では左室腔の円周方向に配向していた.以上より,ゲルの生分解性が再生線維組織の構造を変化させ,治療効果の差を生み出すことが示唆された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本助成におけるシルク濃度,高圧蒸気処理回数,超音波処理時間の変化させる手法と,別の研究助成におけるシルクゲルを架橋性ペプチドで修飾する手法を組み合わせ,化学組成と生分解性がほぼ同一ながら,異なる3つの強度を示すシルクゲルのシリーズを得ることができた.また,これらのゲルを心筋梗塞モデルラットに適用し,ゲル注入後12週までのデータ(n=1)が得られた.さらに,生物活性ペプチド修飾によるシルクゲルの生分解性の改変により,ゲルの生分解性の違いが心筋梗塞ゲル注入療法の治療効果に及ぼす影響を明らかにすることができた.以上の理由により,達成度はおおむね順調に進展していると判断した.
|
今後の研究の推進方策 |
今年度得られた生分解性は同程度ながらも強度が異なるシルクゲル3種類を心筋梗塞モデルラットに適用し,ゲルの強度が心筋梗塞ゲル注入療法の治療効果に及ぼす影響を明らかにする.なお,心筋梗塞モデルラットの作製数には限界があるため,1クールあたりn=2で2クールの実施を計画している.
|
次年度使用額が生じた理由 |
心筋梗塞モデルラットの作製成功率が予定より低かったこと,また,所属機関の移転準備により動物実験の実施時期が限られていたため,計画していたn数の心筋梗塞ゲル注入実験を実施できなかった.これにより次年度使用額が生じた.次年度,当該実験に必要な消耗品の購入に使用する計画である.
|