昨年度,強度(圧縮弾性率)は同程度(約10 kPa)ながらも生分解性(分解期間)が異なる(1,3週)シルクフィブロイン(シルク)ゲルを心筋梗塞モデルラットの心筋内に注入することで,生分解性の遅いシルクゲル注入群の方が心拡大が有意に抑制されること,また,これには再生線維組織のコラーゲン線維の配向性が影響すること可能性を示した.本年度は,ゲル注入後12週における左室壁の免疫染色を行い,炎症細胞(マクロファージ)の集積や分布を調べた.その結果,左室円周方向を向いたコラーゲン線維に沿ってマクロファージが散在すること,生分解性の早いシルクゲル注入群の左室壁には凝集したマクロファージが存在することが分かった.これより,注入されたゲルの生分解性は左室壁内での炎症の程度に影響し,線維組織の構造変化を経て治療効果を左右することが示唆された. 本年度には,また,シルクフィブロイン(シルク)ゲルの圧縮弾性率や生分解性に影響を及ぼす因子の解明にも取り組んだ.強度が軟組織のそれの範囲(1~400 kPa)に入りかつゲル化時間が45分以内を示す15種類のシルクゲルの強度,生分解性,含水率およびβシート含有率を測定し,それらの相関性を解析した.その結果,強度と生分解性とには統計的に有意な相関は認められなかった.含水率は強度,生分解性のいずれとも有意に相関した一方,βシート含有率は生分解性のみと有意に相関した.従って,βシート構造含有率を変化させる操作を行うことで,シルクゲルの生分解性を強度から独立して変化し得ることが分かった.
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