研究課題/領域番号 |
17K01404
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
樋口 政和 東京大学, 医学部附属病院, 特任研究員 (30570254)
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研究分担者 |
篠原 修二 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任助教 (10325897)
山本 伊佐夫 神奈川歯科大学, 大学院歯学研究科, 講師 (30277917)
光吉 俊二 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任准教授 (30570262)
中村 光晃 東京大学, 医学部附属病院, 特任助教 (30772975)
徳野 慎一 東京大学, 医学部附属病院, 特任准教授 (40508339)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 災害医療 / 検死・検案 / PTSD / メンタルケア / 音声 |
研究実績の概要 |
災害時あるいは緊急時の遺体の検死・検案業務の補助にあたる歯科医のストレス程度を把握するため、平成30年度は、遺体身元確認研修会の参加者を対象にして、遺体実習時のストレスによる心の状態変化を調べた。研修会では実際の遺体やマネキン・写真などを用いた実習が行われた。各実習前後で参加者の声を録音し、我々が開発した声から心の健康度(以後、元気圧と呼ぶ)を推定する技術を用いて、参加者の各実習前後の元気圧を取得した。参加者を実際の身元確認業務経験者と未経験者とに分けて、取得データの統計解析を行った結果、未経験者において最初に遺体実習を行った参加者(A)は実習前後で元気圧が大きく変化する傾向にあった。逆にマネキン実習を経て遺体実習を行った参加者(B)は実習前後で元気圧の変化は小さい傾向にあった。Aは初めて遺体に直面してストレスを受け一時的に興奮状態に陥った、あるいは気分が落ち込み気味になったと考えられた。一方、Bはマネキン実習によって、遺体実習時のストレスが緩和されたものと考えられた。経験者においては、遺体実習前のマネキン実習のあり/なしで遺体実習前後の元気圧変化の傾向には大きな違いは見られなかった。
音声を用いたストレスチェックは、他の唾液や血液などの生体情報を用いる手法に比べて、ほとんど非侵襲でかつ手軽に行える。また、自記式アンケートで問題となるレポーティングバイアスも排除できる可能性がある。音声によるストレス評価は簡便で,実習中の限られた時間でも実施が可能だったことは、本技術を実際の災害対応の現場で活用する上で意義がある。
遺体の身元確認という過度のストレスに晒される現場において、業務従事者の心の健康状態を手軽に評価できることは、その後の心的外傷後ストレス障害や併発するうつ病・不安障害などの発症を予見できることに繋がるため重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成30年度以降の研究実施計画では、身元確認研修会参加者の各実習前後の音声分析を行い、心的外傷後ストレス障害に特化した音声パラメータを導出するとともに、遺体に直面した際のストレスを緩和する有効な対策を検討することを予定していた。
平成30年度では参加者を実際の身元確認業務経験者と未経験者とに分けて分析を行ったとこで、それぞれの参加者で遺体に直面したときの心の状態の変化をより詳細に分析することができた。その結果、遺体に直面した際のストレス緩和にマネキン実習が有効であることが示唆された。また、心的外傷後ストレス障害に特化した音声パラメータの導出に先立ち、他の病気患者に特有の音声パラメータの分析も行い、パラメータ導出のノウハウが構築できつつある。これにより、平成30年度以降は当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
音声データは十分な数を取得できたので、今後の身元確認研修会での音声取得は実施しない予定である。今後はデータ分析に注力し、心的外傷後ストレス障害に関係する音声パラメータを導出する。また、これまでの成果を一つにまとめ学会誌論文として発表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29、30年度は実験のサポート要員やデータ分析のための前処理を行うアルバイトなどを短期的に雇い人件費・謝金を支払う計画であったが、既存の人員で十分に対応可能だったため、人件費・謝金の支出がなかった。
次年度使用額は、旅費として使用する計画であるが、必要に応じて物品費にも充てる。
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