研究実績の概要 |
心不全の原因疾患において、虚血性心疾患の増加が注目されている。虚血による心筋障害部位には線維化が生じるため、同部は硬くなり、このような変化は心不全の発症リスクに影響すると考えられる。しかし、局所心筋の硬さを心エコーを用いて評価することは従来困難であった。 近年、スペックルトラッキング心エコーによる心筋ストレイン解析により、収縮早期の伸展運動であるearly systolic lengthening (ESL)や、収縮期後の短縮運動であるpost-systolic shortening (PSS)という微細な心筋運動の評価が容易になった。ESLやPSSの大きさは心筋の硬さに従って変化することが示唆されているため、われわれは、ESLやPSSを解析することにより、虚血領域における心筋の硬さの定量評価が可能であるとの仮説を立てた。 平成30年度は、麻酔開胸犬を用い、左冠動脈前下行枝を5分間閉塞後、虚血領域に100%エタノールを注入することで虚血領域を硬化させるモデルを作製したが、令和元年度は、同様の手技において、生理食塩水を注入する群と60%エタノールを注入する群を追加し、硬さの異なった心筋モデルでの検討を行った。 結果において、生理食塩水群では、虚血領域のESLとPSSは大きな振幅を示したが、60%エタノール群では振幅は低下し、100%エタノール群ではさらに減弱した。また、虚血心筋組織のヤング率をフォースメーターで計測し、各指標との関係を調べたところ、ESL及びPSSは組織のヤング率と有意な逆相関を認めた(ESL: r = 0.63, P = 0.002, PSS: r = 0.66, P < 0.001)。この結果は、微細心筋運動であるESLやPSSを評価することで、虚血領域の心筋の硬さを推定できる可能性を示すものと考えられた。
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