研究課題/領域番号 |
17K01415
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
坂本 憲児 九州工業大学, マイクロ化総合技術センター, 准教授 (10379290)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | マイクロ流路 / 検査・診断システム / 粘度測定装置 / 血球分離 |
研究実績の概要 |
本研究では、医療費増加の大きな原因となっている生活習慣病の予防を目的とし、そのリスク要因である食後高脂血症や糖尿病を簡便に判定できる簡易血液粘度測定装置を開発し、患者のセルフメディケーションを支援する。本研究期間では簡易血液粘度測定装置のために、①血液1滴(1μL程度)で全血および血漿の粘度測定を可能にするマイクロ流体チップの研究、②マイクロ流体チップ上で全血成分から血漿成分を測定するための血球分離機構の研究、③マイクロ流体チップの大量生産化研究の3つに関して取り組んでいる。 本研究の粘度測定では、サンプル血液の電気伝導率から粘度を導出する。しかし、全血の電気伝導率の測定では、測定結果が安定しないという問題が生じている。これは血球成分が電気伝導に影響を及ぼすためと考えられており、血液の粘度を評価するためには血漿成分のみの電気伝導率評価を行わなければならない。 この問題を解決するために、サンプル血液より血球分離を行い血漿の電気伝導率を評価するマイクロ流体チップの研究が必要である(課題②)。H29年度の成果の血球トラップ構造体を元に、H30年度では鋳型の作製を行いマイクロ流路への転写方法について研究を進めた。また、本研究ではポンプレスな簡易測定装置を目指しており、毛細管力による送液システムを検討している。そのため、マイクロ流路内壁の接触角および内壁の表面処理が重要となり、毛細管力送液の可能なマイクロ流路の大量作製が課題となっている(課題①、課題③)。H30年度では、H29年度の研究成果を元に大量生産に転用できる流路の表面処理方法を検討し、親水性表面のマイクロ流路の作製に成功した。またこのマイクロ流路チップによる測定で、疑似体液サンプルでの粘度測定実験に成功した。これらの成果に加えて、本研究の測定方法を応用・改良した内容で特許出願を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H30年度は、主に課題① 血液1μL 程度で粘度測定を可能にするマイクロ流体チップの研究、課題③ マイクロ流体チップの大量生産化研究、を中心に研究に取り組んだ。 H29年度に研究では、マイクロ流路壁面に表面処理剤を塗布する事で親水化処理が可能になった。この成果を元に、大量生産向けの表面処理方法を研究した。マイクロ流路を形成するシリコーンゴムへの親水化処理剤の塗布方法、およびマイクロ流路と電極の接合方法について、他の大量生産時に用いる樹脂材料でも転用できる観点から研究を進め、最適な手法を考案した。これにより、親水化処理を行ったマイクロ流路チップの流動ばらつきを抑える事に成功し、粘度測定が可能なチップを大量に作製できるようになった。本方式を用いたテストチップにより、疑似体液サンプル(リン酸緩衝液)を流し測定する事に成功した。 課題②血球分離の研究に関して、H29年度に考案した血球トラップ構造体を実装するマイクロ流路の鋳型の作製を行った。本件に必要なマイクロ流路では最少5μmの微細な構造体が必要なため、その形成方法を研究しMEMS工程用厚膜レジスト(SU-8)のフォトリソグラフィを用いて鋳型作製に成功した。また同時に血球に働く重力を利用し上澄み液(血漿)のみをバイパスに通す研究についても進め、シリコンウエハ上に形成するプロセスを考案した。 また、本件の測定方法に特許性があったため発展的な内容を含め特許として出願した(特願2018-127461)。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの問題として、②血球分離の研究の流路作製方法(マイクロ流路への転写)が問題となっている。この問題を解決し、全血での分離測定を実施する必要がある。 この分離方法は、1.微細構造体によるトラップ方法、と2.血球に働く重力を利用し血漿を分離するバイパス方法の2つのアプローチを進めている。微細構造体によるトラップ方法については、構造体が微細なためシリコーンゴムで転写が困難な場合は、他樹脂での作製も検討しながら進める予定である。バイパス方法の場合は、シリコン深堀エッチングにより鋳型を作製し、その形状をシリコーンゴムに転写する方法を研究する。 昨年度までの研究成果により、大量生産性の高い親水性マイクロ流体チップの作製方法が確立したため、本研究の内容について、企業との連携でチップ開発を検討している。医学的な臨床データを蓄積するには、本研究の測定チップが大量に必要になる。大量生産するために、研究内容を転用した射出成形のマイクロ流路形成、およびめっき技術で作製したマイクロ電極を検討している。大量生産時のチップにも、本研究の成果であるマイクロ流路内の表面処理技術、および電極を用いた測定技術は適用できるため、樹脂の射出成形が可能な企業、およびめっき電極の作製が可能な企業と連携を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度、購入が遅くなった実験用治具(ピペット)を購入する。
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