研究課題/領域番号 |
17K01420
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研究機関 | 日本工業大学 |
研究代表者 |
加藤 史仁 日本工業大学, 工学部, 准教授 (70780170)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | バイオセンサ / 水晶振動子 / 無線駆動 / ナノインプリントリソグラフィ / ポリジメチルシロキサン |
研究実績の概要 |
本研究では、無線駆動高周波水晶振動子バイオセンサチップと微小送液ポンプの1チップ化による小型分析システム実現を目的としている。本システムの実現により、使用場所の制限やオペレータに依存しない分析が可能となる。当該年度の主な研究成果は、以下の3つの内容である。 【1.電磁駆動微小送液ポンプの提案、構造の基礎的設計、構成部品の試作】磁性流体シール型スラスト軸受けを用いた電磁駆動微小送液ポンプを提案した。また、電磁シミュレーションと流体シミュレーションを通じて、微小送液ポンプの構造について、基礎的設計を実施した。送液ロータとネオジム磁石で構成する回転部品の真空中における慣性モーメントを算出した。PMMAを用いた3D造形技術により、微小送液ポンプを構成する部品を製作した。 【2.圧電駆動微小送液ポンプの提案、構造の基礎的設計、構成部品の試作】バイモルフ圧電素子を用いた圧電駆動微小ポンプを提案した。また、印加電圧に対するバイモルフ素子の変位量を計測し、微小送液ポンプを構成するチャンバ部と逆支弁の基礎的設計を実施した。ナノインプリントリソグラフィにより、チャンバ部と逆支弁、微小流路が一体となったPDMS部品を製作した。 【3.PDMS無線駆動水晶振動子バイオセンサチップ製作とタンパク質捕捉実験】ナノインプリントリソグラフィを用いてPDMS無線駆動水晶振動子バイオセンサチップを製作した。レセプタとして、水晶表面に非特異に吸着させたプロテインAを介して、ターゲットとする免疫グロブリンG(ウサギ由来)の連続捕捉を実施した。反応曲線と解離曲線から、親和性パラメータを同定し、バイオセンサとしての妥当性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに、「1.微小送液ポンプの検討」、「2.PDMS無線駆動水晶振動子バイオセンサチップの製作・評価」に取り組んでおり、おおむね順調に進展している。 【1.微小送液ポンプの検討】駆動方式の異なる(電磁駆動、圧電駆動)微小送液ポンプの構造の基礎的設計、構成部品の試作を平行して推進している。このように、同時に2つの駆動方式を検討することで、同様の検討項目について一本化できるため作業の効率が高く、研究期間を意識したスピーディな取り組みがなされている。また、駆動方式の異なる微小送液ポンプの性能差異について、基礎的設計の段階から比較できるため、無線駆動水晶振動子バイオセンサチップとの1チップ化に向けて、より良い駆動方式の早期選定が可能となる。 【2.PDMS無線駆動水晶振動子バイオセンサチップの製作・評価】微小送液ポンプの基材として広く使用されているPDMSを用いて、ナノインプリントリソグラフィにより、無線駆動水晶振動子バイオセンサチップを製作した。また、製作したセンサチップを用いて、タンパク質捕捉実験を行い、親和性パラメータの同定を通じて、バイオセンサとしての有用性を示した。今回、PDMSを用いたセンサチップ製作技術を確立したことで、センサチップと微小送液ポンプを別々に製作・接合することなく、同一プロセスで一度にセンサチップと微小送液ポンプの1チップ化が可能となる。そのため、センサチップと微小送液ポンプとの接合界面における溶液漏出の課題が改善できる。 当初の研究計画を満足すべく、駆動方式の異なる微小送液ポンプの同時検討による時間を意識したスピーディな取り組みや、PDMS無線駆動水晶振動子センサチップの開発により、今後の研究を加速するための基礎固めが十分になされている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策として、平成30年度は、「センサチップと送液ポンプの高信頼性接合法の検討」に取り組む。 まず、駆動方式の異なる微小送液ポンプの各構成部品を組み立て、駆動実験を行い、ポンプの基本性能を評価する。 その後、センサチップと微小送液ポンプの直接接合を通じて、高信頼性接合法の検討を推進する。直接接合において想定される接合部材の組み合わせは、PDMS同士、PDMSとガラス、PDMSとPMMAである。直接接合プロセスは、各材料の接合面に酸素プラズマを照射することで官能基を励起し、表面を親水化させる。親水化した基板同士を貼り合せることで、脱水反応を通じて、共有結合を介した直接接合がなされる。この直接接合は、接合面の表面粗さや清浄度が大きく影響するため、高い接合強度を得るための基礎検討が必要となる。そこで、今後は、高信頼性接合法の検討を中心に推進する。具体的には、他種ガスを用いたプラズマ処理や紫外線による表面処理、CMP研磨の追加に加え、熱処理や印加荷重を最適化することで、高い引張り強さとせん断強さを有し、溶液漏出を生ずることの無い接合条件の確立に取り組む。 高信頼性接合条件確立後、センサチップと微小送液ポンプを直接接合することで1チップ化し、分析システムを小型化する。1チップ化小型分析システムに対して、超純水バッファを送液しつつ、水晶振動子の基本共振周波数変化を連続的に計測することで、センサ安定性を評価する。また、プロテインA溶液を送液することで、水晶表面に非特異吸着させ、続いて、牛血清アルブミン溶液を送液することで、ブロッキングを施す。その後、プロテインAをレセプタとして、ターゲットの免疫グロブリンGを特異的に捕捉する。この一連のプロトコルを通じて、プロテインAと免疫グロブリンG間の親和性を定量評価し、1チップ化小型分析システムのバイオセンサとしての性能を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
■理由 「次年度使用額」は、必要に応じた執行分の端数として生じたものである。 ■仕様計画 研究に変更は無く、前年度の研究費も含め、当初予定通りの計画を進める。
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